賀

賀（が）は、漢字文化圏、特に中国における主要な姓（漢姓）の一つです。古典的な姓氏集である『百家姓』では、70番目にその名が見られます。

世界における「賀」姓の分布

「賀」姓を持つ人々は、主に中華圏に集中しています。2020年に中華人民共和国で実施された第7回全国人口調査（国勢調査）のデータによると、「賀」姓は中国国内で85番目に多い姓とされており、その人口は約294.33万人にのぼります。一方、台湾における2018年の統計では、人口5,572人で第143位に位置しており、中国本土に比べるとその数は大きく減少します。

朝鮮半島においても「賀」姓は存在しますが、極めて稀少です。韓国の2015年の国勢調査によれば、「하」（ハ、朝鮮語での賀の発音）姓を持つ人口はわずか40人でした。このうち、「素砂賀氏」を本貫とする人が5人確認されていますが、残りの35人は本貫が不明とされています。このデータからもわかるように、「賀」姓は東アジア地域全体で見ると、中国を主要な分布地とし、その他の地域では限定的な広がりを持つ姓と言えます。

「賀」姓の起源と歴史

「賀」姓の起源には複数の説がありますが、最もよく知られているのは「慶」氏からの改姓に由来するというものです。元々、「慶」氏は春秋時代の斉の国に源流を持ち、斉の桓公の孫にあたる慶克を始祖とする由緒正しい氏族でした。

しかし、後漢の時代になると、この慶氏の中から「賀」氏へ改姓する動きが見られました。これは、後漢の安帝（在位：106年〜125年）の父である清河孝王「劉慶」の名を避けるための「避諱（ひき）」と呼ばれる慣習によるものです。皇帝や皇族の諱（いみな）と同じ、あるいは似た文字の使用を避けるため、意味が近く発音も類似した「慶」から「賀」へと改めたと伝えられています。このように、慶氏をルーツとする賀氏は、避諱という歴史的な背景を持って成立しました。

また、別の起源として、中国の北方民族である鮮卑族の改姓も挙げられます。南北朝時代には、鮮卑の有力な部族名であった「賀頼（がらつ）氏」や「賀蘭（がらん）氏」などが、漢風の姓に改める際に「賀」を選んだ例があります。有名な人物としては、鮮卑の賀訥や、北魏の献明賀皇后などがこの系統に属すると考えられています。これらの鮮卑族に由来する賀氏は、北魏王朝を支えた主要な氏族の一つとして、「北魏の八姓」に数えられるほど栄えました。

したがって、「賀」姓は、慶氏からの改姓という漢民族内部での歴史的経緯と、異民族である鮮卑族からの帰化・改姓という、複数の異なる源流を持つ姓であると言えます。

著名な「賀」姓の人物

歴史上、あるいは現代において、「賀」姓を持つ著名な人物が数多く存在します。

賀斉（がき）: 三国時代の呉に仕えた有能な武将として知られ、特に山越族の平定に貢献しました。
賀知章（がちしょう）: 中国唐代の著名な詩人・書家です。李白とも親交があり、「飲中八仙」の一人に数えられています。
賀竜（がりゅう）: 中華人民共和国の建国に貢献した軍人、政治家。十大元帥の一人です。
賀国強（がこっきょう）: 現代中国の政治家。中国共産党中央規律検査委員会書記などを歴任しました。
賀子珍（がしちん）: 中国共産党の指導者、毛沢東の三番目の妻として知られます。文化大革命中に江青らの迫害を受けました。
賀衛方（がえいほう）: 中国の著名な法学者、社会評論家。改革派の立場から発言することが多い人物です。
* 賀軍翔（がぐんしょう、マイク・ハー）: 台湾を中心に中華圏で活動する俳優です。

これらの人物は、軍事、政治、文化、芸能など、様々な分野で活躍しており、「賀」姓が多岐にわたる人材を輩出していることを示しています。

「賀」姓は、古代中国における避諱の歴史や、民族間の交流といった背景を持ち、時代を超えて多くの著名人を輩出してきた、奥深い歴史を持つ姓と言えるでしょう。

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