賢所御神楽

賢所御神楽（かしこどころみかぐら）

賢所御神楽は、毎年12月中旬に賢所（旧内侍所）において執り行われる宮中祭祀です。これは、皇室の祖先神である天照大御神を祀る賢所に対して奏される神楽であり、皇室の安寧と国家の繁栄を祈願する重要な儀式です。

起源

賢所御神楽の起源は非常に古く、神代の時代にまで遡るとも言われています。特に、天照大御神が天岩戸に隠れたという神話に深く関連しており、この神話に基づいて、神々が歌い舞い踊った様子を再現するものとされています。この神話は、太陽が隠れて世界が暗闇に包まれた状態から、再び光を取り戻すという再生の象徴でもあり、冬至の時期に行われる賢所御神楽は、新たな年の始まりに向けて、その意味合いを強く持っています。

歴史

神楽の起源は、『古事記』に記される天岩戸神話に登場する歌舞に求められます。奈良時代の『古語拾遺』には、猨女君が神楽を担ったという記述があり、平安時代の『讃岐典侍日記』にも、清暑堂御神楽に関して天照大御神が岩戸から出られたことを起源とする記述が見られます。古代の神楽は女性によって行われていましたが、時代が下るにつれて男性のみによって行われるようになりました。

朝廷の年中行事としては、宇多天皇によって始められた賀茂臨時祭の還立御神楽が最初であると考えられています。内侍所御神楽としては、一条天皇の時代に内侍所が火災に見舞われ、神鏡が損傷したことを慰めるために行われたのが始まりとされています。その後、内侍所御神楽は不定期に執り行われていましたが、長暦2年（1038年）に後朱雀天皇の勅命により、毎年12月の年中行事として定着しました。

南北朝時代には、北朝が三種の神器を持たずに即位した際、神鏡がない状態で内侍所を祀る「如在の礼」という形式で内侍所神楽が行われました。一方、南朝では後村上天皇自らが神鏡を前にして神楽を執り行いました。

応仁の乱の際には、内裏が戦火に巻き込まれ、朝儀が一時停止されました。しかし、文明2年（1470年）と文明4年（1472年）に内侍所の鳴動という出来事があり、これを神の怒りとして恐れた朝廷は、室町殿に内侍所を新造し、遷座の儀と御神楽を行いました。文明6年（1474年）には、後土御門天皇の強い意向により内侍所神楽が挙行され、天皇自身も参拝しました。この際には、西軍統治下にいた歌人を呼び寄せるなど、多くの困難を乗り越えて開催されました。

現代における賢所御神楽

現代においても、賢所御神楽は宮中祭祀の中でも特に重要な儀式として位置づけられています。毎年12月中旬には、天皇皇后両陛下をはじめとする皇族や、宮内庁の関係者らが参列し、厳粛な雰囲気の中で神楽が奏でられます。この神楽は、古式にのっとり、歌や舞を通して神々を祀り、国家の安泰と国民の幸福を祈願するものです。

参考文献

中澤信弘『宮中祭祀』展転社、2018年
大原康男『天皇-その論の変遷と皇室制度』展転社、1994年
中本真人『なぜ神楽は応仁の乱を乗り越えられたのか』新典社、2021年
中本真人『宮廷の御神楽』新典社、2016年

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