赤マント

赤マント：昭和初期を震撼させた都市伝説

赤マントは、昭和初期の日本において広く流布した都市伝説、あるいは恐怖を煽る噂話です。赤いマントを羽織った怪人が子供を誘拐し、殺害するという恐ろしい内容で、多くの子供たちを恐怖に陥れました。その怪人の正体、噂の発祥、そして伝播の経緯など、未だに謎に包まれた部分も多く、様々な説が飛び交っています。

赤マントの正体：複数の説が交錯

赤マントの正体については、複数の説が提唱されています。一つには、明治39年に福井県で発生した「青ゲッタの男」事件が起源とする説です。この未解決事件の不気味さが全国に広がり、それが赤マントの伝説を生んだとするものです。昭和10年代に発生した「赤毛布の男」事件との関連も指摘されますが、これは誤りであるとされています。

別の説として、東京谷中で発生した少女暴行殺人事件と、当時流行していた紙芝居『赤マント』（加太こうじ作）が混ざり合ったとする説があります。紙芝居『赤マント』自体は、芥川龍之介の『杜子春』をモチーフにした比較的無害な物語でしたが、噂話と結びつくことで、大阪では警察に押収される騒ぎにまで発展しました。しかし、この紙芝居と噂の関連性については異論もあり、昭和11年の「二・二六事件」を起源とする説や、江戸川乱歩の『怪人二十面相』の影響を指摘する説なども存在します。さらに、旧制高校生のマント姿が子供たちに恐怖を与えたという説も興味深いものです。

噂の伝播：情報伝達手段と社会情勢の影響

赤マントの噂は、1940年（昭和15年）頃、東京から東海道を経て大阪へと広がっていったとされています。情報伝達手段が限られていた当時、噂は人から人へと口伝えで広がり、その過程で内容が変化していったと考えられます。別の説では、1935年（昭和10年）頃、大阪市の小学校で始まった地下下駄箱の噂が東京に伝わり、それが赤マントの話へと発展したともされています。昭和10年代の東京大久保では、赤マントは吸血鬼であり、襲われた死体が多数あるという恐ろしい噂話も流れたとされています。

噂はさらに北九州、そして日本統治下の朝鮮半島にまで広がったとされ、その広がりは当時の社会情勢も反映していると言えるでしょう。社会主義者の銀行員が人心を動揺させるために流した噂話であり、後に逮捕されたという説も存在します。

類似の都市伝説との関連性

赤マントに類似した都市伝説として、1970～80年代に神戸市で流布した「赤い毛布の男」の噂があります。この噂では、赤い毛布にくるまった人物が子供を毛布にくるんでさらっていくというものでした。また、赤マントの派生として、学校のトイレを舞台にした「赤いマント・青いマント」や、「赤い紙、青い紙」といった都市伝説も生まれました。これらの類似の噂話から、赤マントが持つ恐怖のテーマや、それが社会の中でどのように変容していくのかが分かります。

まとめ：未解明の謎と続く恐怖

赤マントは、その起源や正体、伝播経路など、未だ多くの謎を残す都市伝説です。しかし、様々な説を比較検討することで、当時の社会情勢や人々の心理、情報伝達手段などが複雑に絡み合って、この恐ろしい物語が生まれたことが推測できます。赤マントの物語は、単なる怪談話としてではなく、時代背景や社会心理を反映する貴重な資料として、今後も研究されるべきでしょう。

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