赤斤蒙古衛

赤斤蒙古衛の詳細解説

赤斤蒙古衛（せっきんもうこえい）は、明朝が河西回廊に設置した羈縻衛所の一つであり、現在の中国の甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区の境界付近に位置していました。この地域は、歴史的に様々な民族や勢力が交錯する場所であり、赤斤蒙古衛もその中で複雑な歴史を歩みました。

タルニ（塔力尼）の治世

赤斤蒙古衛の始まりは、北元の丞相クチュの息子であるタルニ（塔力尼）が、永楽2年（1404年）に500人余りの部下を率いて明朝に帰順したことに遡ります。この際、永楽帝はタルニの功績を認め、赤斤蒙古千戸所を設置し、タルニを千戸長に任命しました。さらに永楽8年（1410年）には、千戸所を「赤斤蒙古衛」に昇格させ、タルニを指揮僉事に、他の百戸長らを千戸長に昇格させ、漢人風の姓名を与えました。この措置は、明朝が周辺の民族を懐柔し、間接的に支配するための政策の一環でした。

永楽9年（1411年）には、タルニは沙州衛指揮のコンジライ（困即来）と共に明朝に朝貢を行っており、明朝との関係を良好に保っていたことがわかります。しかし、永楽10年（1412年）には、明朝に叛したラオディカン（老的罕）が赤斤蒙古衛に逃れ、タルニがこれを匿うという事件が発生しました。永楽帝は激怒し、豊城侯李彬に討伐を命じましたが、李彬らは時期尚早であるとして反対し、最終的に使者を派遣してラオディカンを引き渡させました。この事件の後、タルニは指揮同知に昇進し、千戸長も正千戸に昇格、下賜品も贈られています。

スナンシュジャ（且旺失加）の治世

宣徳元年（1426年）には、代替わりしてスナンシュジャ（且旺失加）が都指揮同知に任命されました。また、指揮同知であった苟古者が都指揮僉事に任命されました。この頃も、赤斤蒙古衛は明朝への朝貢を続けており、宣徳2年（1427年）には千戸のサイフッディーン（賽夫丁）が、宣徳3年（1428年）にはティムール朝やモグーリスタン・ハン国に派遣された明朝の使者を支援しました。これらの功績により、沙州衛と共に下賜を受けています。宣徳5年（1430年）には、メクリン部の長モンケ・ブカや沙州衛のコンジライと共に朝貢しています。

宣徳7年（1432年）には、再びティムール朝への明朝使節を護送しています。また、この頃、指揮僉事の子であるトクト（脱脱）とイルベイ（亦魯伯）が父の後を継ぎました。しかし、同年秋には粛州の官軍が偵察中に殺害される事件が発生し、粛州都督の王貴は赤斤蒙古衛の犯行を疑い、朝廷に報告すると共に、私貿易を行う赤斤蒙古人を厳しく取り締まるよう上奏しました。その後、赤斤蒙古衛から明朝に帰順する者が相次ぎ、王貴の不正が明らかになり、捕らえられています。

正統元年（1436年）には、都指揮スナンシュジャの要請で部下の官位が昇格しました。しかし、同年には千戸の把都麻が賊の首魁となる事件も発生しています。その後も明朝に帰順する者が相次ぎましたが、都指揮同知スナンシュジャはトゴン・テムルやモンケ・ブカ討伐の功績によって都指揮使に昇格しました。

赤斤蒙古衛の統治者

赤斤蒙古衛を統治した主な人物は以下の通りです。

タルニ（塔力尼）：初代指揮同知
スナンシュジャ（速南失加/且旺失加＝安思謙）：都指揮同知、後に都指揮使

まとめ

赤斤蒙古衛は、明朝が周辺民族を懐柔し、間接的に支配するための重要な拠点でした。しかし、その内部では様々な問題が発生しており、周辺勢力との関係も複雑でした。タルニの時代には明朝との関係は良好でしたが、スナンシュジャの時代には内部の混乱や周辺勢力との関係など、様々な問題が発生しました。赤斤蒙古衛の歴史は、明朝と周辺民族との複雑な関係を示すものと言えるでしょう。

参考文献

杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年

関連項目

哈密衛
沙州衛
阿端衛
* 曲先衛

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