沙州衛

沙州衛とは

沙州衛（さしゅうえい）は、明朝が河西回廊に設置した羈縻衛所の一つです。現在の中国甘粛省酒泉市敦煌市に位置していました。名目上は明朝の統治下でしたが、実態としては元代から続くチャガタイ系西寧王家が支配するモンゴル系国家でした。

起源

沙州衛を統治する王家は、チャガタイの子孫であるチュベイの息子ブヤン・ダシュとスレイマン父子を始祖とすると考えられています。チュベイには10人以上の息子がおり、そのうちの一人ブヤン・ダシュが独自の王家を形成しました。ブヤン・ダシュの死後、一時的に弟のトクタミシュが王家を支配し「西寧王」の称号を得ましたが、トクタミシュの死後、ブヤン・ダシュの息子スレイマンが後を継ぎ、以後「西寧王」はスレイマンの子孫から輩出されるようになりました。

スレイマン家の足跡は『元史』には断片的にしか記録されていませんが、「莫高窟造象記」や「重修皇慶寺記」といった碑文にはスレイマン家の家族構成が記されており、この家系図はティムール朝で編纂された『高貴系譜』とほぼ一致します。

碑文や『元史』によれば、スレイマンから西寧王位を受け継いだのはヤガン・シャーです。しかし、至正13年（1353年）以降、西寧王家に関する記述は見当たらず、その後の動向は不明です。しかし、明朝が元を北方に駆逐した後、洪武24年（1391年）に沙州から明朝に使者を派遣したエルケシリ（阿魯哥失里）は、『高貴系譜』に記載されたヤガン・シャーの弟スルタン・シャーの息子アルーカシーリーと同一人物と推測されています。このことから、スレイマン西寧王家による沙州支配は元から明代を通じて連続していたと考えられています。

沙州衛史

永楽3年（1405年）、沙州の頭目コンジライ（困即来）とバイジュ（買住）が明朝に投降したため、永楽帝は沙州衛を設置し、彼らを指揮使に任じました。永楽5年には、買住の配下である赤納が明朝に帰順し、指揮僉事に任ぜられました。しかし、永楽帝は官位の上で赤納が買住の上に立つことを懸念し、買住を昇進させて指揮同知とし、今後の官職授与には慎重に行うよう布告しました。

永楽8年（1410年）、カラマヤ（哈剌馬牙）が明朝に反逆すると、沙州衛指揮のコンジライは千戸のケフテイ（可台）らを派遣し、哈剌馬牙討伐で功績を挙げました。この功績により、コンジライは都指揮僉事に昇進し、指揮同知ドルジ（朶児只）、チャガン・ブカ（察罕不花）は指揮僉事に、李答児卜顔哥は指揮同知に昇進しました。さらに、千戸、百戸、鎮撫の役職にあったウルス（兀魯思）ら17人も一階級昇進しました。この時、共闘した赤斤蒙古衛のタルニ（塔力尼）も官職の昇進を受け、翌年には一緒に明朝に使者を派遣し、下賜を受けています。

永楽22年（1424年）には、オイラトの賢義王タイピンが派遣した使者を護送した功績によって、沙州衛都指揮コンジライは綵幣（さいへい）と表裏（ひょうり）を与えられました。

沙州地方統治者

スレイマン西寧王家

ブヤン・ダシュ（Buyan Daš,Būyān tāš بویان تاش）：豳王チュベイの息子
西寧王クタトミシュ（Qutatmiš,豳王忽塔忒迷失/Qutātmīš قتاتمیش）：豳王チュベイの息子、ブヤン・ダシュの弟
西寧王スレイマン（Sulaiman,西寧王速来蛮/Sulaymān سلیمان）：ブヤン・ダシュの息子
西寧王ヤガン・シャー（Yaγan Šah,牙罕沙西寧王/Yaghān šāh یغان شاه）：西寧王スレイマンの息子
王子エルケシリ（Erkeširi,王子阿魯哥失里/Alūka šīrī الوکه شیری）：西寧王ヤガン・シャーの弟スルタン・シャーの息子

沙州衛統治者

王子エルケシリ（Erkeširi,王子阿魯哥失里/Alūka šīrī الوکه شیری）

脚注

1. 参考文献
赤坂恒明「バイダル裔系譜情報とカラホト漢文文書」『西南アジア研究』66号、2007年
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年

2. 関連項目
北元
哈密衛
* 安定衛

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