赤本 (少年向け本)

赤本：明治・大正時代の出版文化と少年たちの娯楽

明治時代から昭和初期にかけて、少年たちの間で広く親しまれた「赤本」は、表紙が赤系統の色で統一され、講談や落語を収録した書籍です。一般の書店ではなく、駄菓子屋や露店などで販売されていたことから、大衆娯楽の象徴として独特の存在感を放っていました。その内容は、現代の視点からは低俗と捉えられるものも多く含まれていましたが、当時の少年たちにとって、手軽に手に入る刺激的な読み物として人気を博しました。

赤本の起源と出版事情

赤本のルーツは、江戸時代から続く地本絵本の流れを汲んでいます。錦絵や草双紙などを含む地本の中には、既に「赤本」と呼ばれていたものもあったとされています。明治時代に入ると、大川屋を始めとする出版社が、貸本業から転身する形で赤本の出版に乗り出しました。蔵前周辺は、近代赤本の出版の中心地として発展し、綱島書店や金井信生堂といった老舗に加え、湯浅春江堂など多くの出版社が拠点を構えました。

一般的な書籍とは異なり、赤本は露店商や玩具商といった、既存の流通ルートに乗らない業者によって販売されていました。これは、東京地本彫画営業組合による特例措置として認められたものでした。この独自の流通システムが、赤本の普及に大きく貢献したと言えるでしょう。

赤本マンガの隆盛と終焉

1930年代に入ると、描き下ろしの漫画本が急増する中で、赤本マンガも誕生しました。大阪の松屋町周辺がその発祥地とされ、当初は駄菓子屋で玩具として販売されていました。その後、東京でも制作されるようになり、後の貸本マンガの原型となったと言えるでしょう。

1947年、手塚治虫の『新宝島』が大きなベストセラーとなり、赤本マンガは全国的なブームを巻き起こします。発行部数は40万部から80万部とも言われ、その人気は凄まじいものがありました。赤本マンガは、ターザンや美空ひばり、力道山といった当時の有名人を題材にしたものも多く、少年たちの関心を集めました。しかし、多くの赤本マンガには発行年や作者名が記載されておらず、その詳細な情報は現在も謎に包まれている部分も多いです。

1948年から1950年頃が赤本マンガブームのピークであり、その後、1冊100円を超える価格帯になるなど、市場の変化も訪れました。1955年には、悪書追放運動などの影響もあって、赤本マンガは姿を消していきます。しかし、赤本マンガの出版元の中には、貸本向けの漫画供給へと事業転換することで生き残ったところもあり、その流通ルートは貸本劇画へと引き継がれていきました。

まとめ

赤本は、明治・大正・昭和初期の出版文化を語る上で欠かせない存在です。独自の流通システムと、時代を反映した内容によって少年たちの心を掴んだ赤本は、現代のマンガや出版業界にも多大な影響を与えたと言えるでしょう。赤本マンガの隆盛と衰退は、戦後日本の社会変化や出版業界の変遷を映し出す鏡として、今後も研究の対象となるに違いありません。

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