赤阪鐵工所

株式会社赤阪鐵工所（あかさかてっこうしょ）

東京都千代田区に本社を構える株式会社赤阪鐵工所は、日本の産業界において特異な存在感を放つ企業です。特に船舶用ディーゼル機関の製造販売を主力としており、その歴史は明治時代にまで遡ります。長年にわたり培ってきた技術力と品質への徹底したこだわりは、日本の漁業や海運、さらには独特の海洋文化の発展に大きく貢献してきました。

沿革

同社の歩みは、1909年（明治42年）に創業者の赤阪音七氏が、静岡県焼津港にて漁船の動力化と修繕を目的として、焼津漁業協同組合購買部に招かれたことから始まります。翌1910年には、焼津生産組合の修繕工場を譲り受け、個人経営の「赤阪鐵工所」として正式に創業しました。その後、事業の拡大に伴い、1934年（昭和9年）には株式会社として組織を改め、赤阪音七氏が初代社長に就任しています。

創業当初は焼玉エンジンの製造が中心でしたが、1937年（昭和12年）頃には漁船の高性能化ニーズに応えるため、より高出力なディーゼルエンジンの製造へと軸足を移しました。1942年には駿陽鋳造株式会社を統合し、自社の鋳造工場を設けることで、品質管理体制を強化しました。

第二次世界大戦終結後、軍需生産から脱却した同社は、漁船をはじめとする一般船舶向けの高出力機関の開発に注力します。1954年には900馬力過給器付きエンジンの開発に成功。1960年には三菱重工業とのライセンス契約に基づき、大型2ストロークディーゼルエンジンの製造販売を開始し、製品ラインナップを拡充しました。

技術革新の追求は続き、1967年にはUHS型1,000馬力エンジンを完成させ、日本国内で初めて4ストロークエンジンの小型高出力化を実現しました。また、オイルショック後の省エネルギーニーズに対応するため、1976年には2弁式のディーゼル機関「DMシリーズ」を発表するなど、常に時代の要請に応じた製品開発を進めています。

1980年代からは、漁業環境の変化に対応するため、事業の多角化にも積極的に取り組みました。この時期、船舶用機関で培った技術を応用し、立体駐車装置やトンネル掘削機、さらにはGPS自動操舵システムといった新たな分野の製品開発・製造に着手しています。

品質管理の重要性を認識し、1996年には国際標準化機構のISO9001認証とNK品質システムの認証を取得しました。2002年には新世代ディーゼル機関「AXシリーズ」を発表。長年の生産実績が実を結び、2005年には創業以来の生産馬力が累計1,500万馬力に、そして2013年にはディーゼル機関の累計生産台数が10,000台に達しました。近年では、2021年に東京本社を千代田区内の丸の内へ移転しています。

事業内容と貢献

同社の主な事業は船舶用ディーゼル機関およびその関連製品の製造販売ですが、内燃機関、舶用機器、海洋観測機器のほか、工作機械、建設機械、環境衛生装置、衛星利用測定装置、天体観測用機器、さらには鋳造品や鍛鋼製品、不動産賃貸管理まで、多岐にわたる製品やサービスを手掛けています。

創業者の赤阪音七氏が焼津で開始した漁船の動力化への取り組みは、焼津漁港が東洋一の遠洋漁業基地へと発展する礎となりました。また、同社の機関が全国の漁船に普及したことは、日本独自の海洋文化の形成に大きく貢献したと言えます。

社名と品質へのこだわり

社名の一部である「鐵工所」に使用されている「鐵」という文字には、同社の特別なこだわりが込められています。一般的な「鉄」という字が「金を失う」と連想されることを避け、「鐵」という文字を選んだとされています。これは、物づくりに対する真摯な姿勢と、企業として失うべきでないものを大切にする強い意志の表れと言えるでしょう。

そして、赤阪鐵工所の根幹をなすのが「品質」への揺るぎない信念です。創業者・赤阪音七氏が掲げた「決して、船主や乗組員に迷惑をかけるような機械をつくってはならない」という理念は、現在まで脈々と受け継がれています。創業当初から、開発した赤阪式ディーゼル機関を搭載した船舶には、創業者自身や社員が実際に乗り込み、過酷な海上での運転データや状態を徹底的に収集・分析しました。このような徹底した品質管理活動は、当時の地域産業において極めて先進的であり、同社が舶用動力機関メーカーとして国内外からの厚い信頼を勝ち得る基盤となりました。品質第一の精神は、同社の全ての事業において最も重要な指針となっています。

もう一度検索