走為上

走為上（そういじょう）

「走為上」とは、兵法三十六計の最後に位置する計略であり、「走（に）ぐるを上（じょう）と為（な）す」、つまり「万策尽きたときは逃げるのが最善の策である」という意味を持ちます。これは、自軍が不利な状況において、無益な戦いを避け、戦力を温存するための戦略的撤退の重要性を説いています。

概要

走為上は、兵法三十六計の中でも「敗戦計」に分類され、他の敗戦計が失敗に終わった状況下で用いられます。降伏や停戦といった選択肢と比較して、損害を最小限に抑え、勢力を維持することを目的としています。

重要なのは、単なる逃走ではなく、状況を冷静に判断し、組織的に撤退することです。孫子の兵法にも「勝算が無い時は戦ってはならない」とあるように、無謀な戦いを避けることは、兵法における基本原則の一つです。

宋の檀道済は、この戦術を巧みに用い、敵軍が優勢な状況では速やかに撤退し、戦力を温存することで、敵に脅威を与え続けました。

ただし、現代日本では、敵前逃亡や敗走を恥とする価値観が根強いため、「逃げるが勝ち」という言葉と同様に、誤用されやすい点に注意が必要です。

金蝉脱殻との関連性

走為上は、第二十一計である金蝉脱殻と重複する側面があります。金蝉脱殻は、敵を欺き、気づかれないように撤退する計略ですが、走為上は、より広い意味で、戦略的な撤退全般を指します。

事例

走為上の具体的な事例として、以下のものが挙げられます。

宋の畢再遇の事例： 金軍との戦いにおいて、圧倒的な兵力差を前に、畢再遇は軍旗を残し、羊を使った巧妙な仕掛けで敵を欺き、全軍を安全に撤退させました。金軍は宋軍の撤退に気づくのが遅れ、追撃による損害を抑えることに成功しました。

漢楚戦争における劉邦の事例： 劉邦は、項羽の圧倒的な武力に対し、直接対決を避け、籠城戦やゲリラ戦を展開しました。別働隊の韓信に諸国を平定させ、楚の勢力を弱める一方で、自軍の戦力を温存しました。項羽が人質を取って脅迫しても、動じることなく、最終的には楚とのパワーバランスを逆転させ、勝利を収めました。

海戦における走為上

陸戦とは異なり、海戦においては、敵戦力への打撃が勝利に繋がるため、「こちらが有利になるまでは相対せず戦力を保つために撤退せよ」という考え方が、戦術の定石となっています。

まとめ

走為上は、単なる逃走ではなく、戦略的な撤退の重要性を示す計略です。不利な状況においては、無謀な戦いを避け、戦力を温存し、再起を図ることが重要です。ただし、現代においては、その意味を正しく理解し、適切に用いる必要があります。

関連項目

* 撤退

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