起立工商会社

起立工商会社：日本の貿易の先駆け

起立工商会社は、明治時代初期に設立された日本の貿易会社であり、日本の美術品や工芸品を世界に輸出し、国際的な貿易の道を切り開いた先駆者として知られています。明治7年（1874年）に開業したこの会社は、国策会社としての側面も持ち合わせていました。

設立の背景

明治6年（1873年）のウィーン万国博覧会において、日本政府は総力を挙げて日本の美術品や物産品を出展しました。その結果、日本の緻密で美しい美術工芸品は多くの外国人の関心を集め、ヨーロッパにおける日本観を一変させるほどの大きな反響を呼びました。

博覧会後、イギリスのアレクサンドラ・パーク社が屋外展示されていた日本建築と庭園の買い取りを希望し、博覧会事務局に商品の保証を求めました。しかし、政府は直接関与できないため、佐野常民の指名により、嬉野茶の輸出で実績のあった松尾儀助を社長に、美術・工芸に精通した若井兼三郎を副社長に据え、急遽、半官半民の貿易会社として起立工商会社が設立され、日本庭園の販売を手がけることになりました。その後、博覧会の売れ残り品も取り扱うようになりました。

アレクサンドラ・パークへの神社楽殿などの移築には、サウス・ケンジントン博物館（現ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館）の館長であるフィリップ・クンリフ＝オーウェンやクリストファー・ドレッサーが協力しました。

事業の拡大

明治7年（1874年）、松尾と若井は銀座に事務所を開設し、その後、木挽町と築地に製造所を建設し、美術工芸品の製造を開始しました。最盛期には80名以上の社員と、全国から集められた100名以上の職人を雇用し、その製品は世界各地の万国博覧会に出品され、数々の金賞を受賞しました。これらの美術品は、後に日本が外貨を獲得するための重要な輸出品となっていきました。

アメリカ合衆国への進出

明治9年（1876年）には、アメリカ独立100周年を記念して開催されたフィラデルフィア万国博覧会に初参加しました。松尾儀助、若井兼三郎らに加え、佐賀出身で英語に堪能な八戸欽三郎などが参加しました。博覧会では、香蘭社製の有田焼（伊万里焼）が特に注目を集め、アメリカ人の異国趣味を刺激しました。

同時期に開館したボストン美術館の関係者は、博覧会をコレクションを増やす絶好の機会と捉え、アーネスト・フェノロサは日本の展示を「驚きの宝庫」と評しました。博覧会の成功を受け、松尾儀助はニューヨークへの進出を決意し、ブロードウェイに店舗を仮契約し、帰国後に大隈重信の協力を得て、八戸欽三郎を支店長とするニューヨーク支店を開設しました。

ニューヨーク支店では、織物、蒔絵、漆器、陶磁器などの日本の工芸品を扱い、異国情緒あふれる店としてニューヨークで注目を集めました。大隈重信は後に、松尾儀助が日米貿易の礎を築いたと評価しています。

ヨーロッパへの進出

ニューヨークでの成功を受けて、明治11年（1878年）にはパリ万国博覧会の開催に合わせてパリ支店を開設しました。初代支店長には大塚琢造、通訳には林忠正が起用され、フランスでもジャポニスムが流行し、陶器や扇子などが人気を集めました。また、浮世絵は印象派の画家に大きな影響を与えました。

当時無名であったフィンセント・ファン・ゴッホも起立工商会社を訪れ、嬉野茶の茶箱のプレートを譲り受け、油彩画のキャンバスとして使用しました。

明治21年（1888年）のバルセロナ万国博覧会、明治22年（1889年）のパリ万国博覧会にも参加し、起立工商会社は万博に欠かせない存在として知られていました。

解散とその後

万博への参加や支店の拡大は一見好調に見えましたが、明治14年（1881年）の政変後の円高や、高品質な製品作りによるコスト増が経営を圧迫し、明治24年（1891年）に解散しました。しかし、17年という短い期間ながら、起立工商会社は日本の美術工芸品の発展に大きく貢献し、山中商会など後の貿易会社の礎となりました。

松尾の没後、宮川香山や林忠正らの働きかけにより、松尾儀助は勲四等と従五位を授与されました。平成27年（2015年）には、起立工商会社の名を由来とする漆工ブランド「希龍舎」が立ち上げられました。

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