辰口信夫

辰口信夫：アッツ島で散った軍医の日記

辰口信夫（1911年8月31日 - 1943年5月31日）は、第二次世界大戦中にアッツ島で戦死した日本の陸軍軍医でした。彼はセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒であり、アメリカで医学教育を受け医師免許を取得。帰国後、東京衛生病院で勤務していましたが、1941年に召集され軍医として従軍しました。アッツ島での戦闘中に書き残された日記は、日本軍の視点から戦闘の状況を伝える貴重な歴史資料として知られています。

生い立ちと信仰

辰口の父、主一は広島出身で、アメリカで歯学を学び、セブンスデー・アドベンチスト教会の信者となりました。帰国後、広島で歯科医院を開業し、教会の設立に尽力しました。辰口は、1911年にその次男として生まれ、英語名のポール（Paul）と信夫という名を与えられました。彼は幼い頃から英語に親しみ、アメリカで教育を受けることになります。

アメリカでの学び

辰口は、パシフィックユニオン大学、ロマリンダ大学で医学を学び、1938年に医師免許を取得しました。アメリカ留学中、彼は真面目な学生として知られ、クラスメイトからは「タッツィー」またはポールと呼ばれていました。アメリカでの生活を通じて、彼はアメリカ文化にも深く親しみを抱いていました。

軍医として

帰国後、辰口は東京衛生病院で働く傍ら、幼馴染のミヤケタエコ（耐子）と結婚。しかし、日米関係の緊張が高まる中、1941年に陸軍に召集されます。彼は軍医として、当初は東京の近衛歩兵第1連隊に配属されましたが、その後、南太平洋の戦地へと送られます。

アッツ島の戦いと日記

1942年末、辰口はアッツ島に配備されます。1943年5月12日、アメリカ軍がアッツ島に上陸し、激しい戦闘が開始されます。辰口は、戦闘中に日記を書き続けました。日記には、負傷者の治療に奔走する様子や、戦況が悪化していく中で家族を思う気持ちが綴られていました。

5月30日、山崎保代大佐の指揮のもと、日本軍は最後の突撃を敢行します。辰口の死については諸説ありますが、戦闘の最終日に戦死したと考えられています。彼の最後の日記には、家族への別れのメッセージが記されていました。

日記の発見と翻訳

辰口の死後、日記はアメリカ軍によって発見され、英語に翻訳されました。アメリカで教育を受けたクリスチャンである辰口が、悲劇的な最期を遂げたという事実は、アメリカで大きな注目を集めました。日記の抄訳は西洋の戦記家に広く引用され、特に家族への別れを告げるメッセージは有名です。

ローラとレアード

終戦後、辰口の娘ローラは、父を殺害したアメリカ兵ディック・レアードと出会います。レアードは、辰口の日記に記された住所録からローラを探し出し、自らが辰口を殺害したことを告白しました。ローラはレアードを許し、二人の間には交流が生まれました。

辰口信夫の遺産

辰口信夫は、軍医として職務を全うし、アッツ島で戦死しました。彼の日記は、戦争の悲惨さや人間の葛藤を伝える貴重な資料となっています。彼の生涯は、戦争という極限状態の中で、信仰と家族愛を貫いた一人の人間の物語として、語り継がれるでしょう。

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