農業 (ゴヤ)

農業 (La Agricultura)

『農業』は、フランシスコ・デ・ゴヤによって1804年から1806年に制作された寓意画で、スペインのロマン主義を代表する作品の一つです。この作品は、当時のスペイン宰相マヌエル・デ・ゴドイのために制作された4点のトンド作品の中の一つであり、今ではマドリードのプラド美術館に収蔵されています。

制作の背景

1799年に首席宮廷画家となったゴヤは、国王カルロス4世と王妃マリア・ルイサ・デ・パルマから特別に信任され、ゴドイのために多くの作品を仕上げました。ゴドイ自身も1792年に宰相に任命され、カルロス4世から宮殿を賜り、その改修が行われる中で、宮殿の正面大階段ホールの装飾が依頼されました。このホールは、訪問者がゴドイに会うための控え室としても利用されており、著名な政治家としての自己アピールに理想的な場所でした。

ゴヤはこの依頼に対し、『商業』、『工業』、『科学』の3点の寓意画と共に『農業』を描きました。これらの作品は、当時流行していた啓蒙主義の考え方に基づくものであり、国家の発展を象徴しています。

作品の紹介

『農業』の画面では、ローマ神話の豊穣の女神ケレスが描かれています。彼女は緑色の服装を纏い、小麦の穂で作られた冠をかぶり、片手に小麦、もう片手には林檎や柘榴を持っています。その足元には農具が並べられており、農業の象徴を強調しています。一方で、農夫が女神の側に控え、果物の入った籠を抱えつつ彼女の顔を見つめている様子が特徴的です。この農夫は、収穫を司る下位の神メッソールと考えられています。

農具と共に描かれた鋤は、田舎の労働を暗示し、耕作の季節の到来を示しています。また、背景に描かれた天秤座や蠍座は収穫期をも連想させます。作品全体が、自然の恵みと人間の努力の結びつきを表現していることが伺えます。

構図と技法

4点の寓意画は、全てテンペラで描かれており、フレスコ画のような明るくごと感のある雰囲気を生み出しています。ゴヤはチェーザレ・リーパの作品『イコノロギア』からインスピレーションを得ており、女神ケレスをその中の農業の寓意として捉えています。また、マドリードのオリエンテ宮殿で見たルーベンスとスナイデルスの『ケレスとパン』の構図にも触発されていると考えられています。全体の構図は、タペストリーのカルトンに見られるピラミッド型の形状を用いており、光と影のコントラストも巧みに使われています。

作品の後歴

完成した四点は、正面大階段ホールのルネットの上に設置されました。『農業』と『商業』はホールの北と南壁、そして『工業』は東壁、『科学』は西壁に配置されましたが、現在『科学』の作品は失われています。これらの寓意画は、1807年以降もゴドイの宮殿内に残り続け、最終的には1930年に海軍省がパセオ・デル・プラドへ移転後に、1932年にプラド美術館に寄託されました。

まとめ

『農業』は、単に農業活動を象徴する作品であるだけでなく、時代背景やゴヤ自身の技術、そして社会的なメッセージが凝縮された名作です。プラド美術館にて多くの人々に観賞され続けるこの作品は、今なおその美しさとメッセージを伝えています。

もう一度検索