辻村太郎

辻村 太郎（つじむら たろう）

辻村 太郎は、1890年6月12日に生まれ、1983年7月15日に没した日本の地理学者、地形学者です。日本における地理学、とりわけ地形学の確立とその後の発展に多大な貢献をしました。日本の地理学史を語る上で、その存在は欠かせない人物として広く認識されています。

経歴

神奈川県小田原市に生まれた辻村は、13歳で神奈川県立第二中学校に入学しました。三年後に東京開成中学校へ転校し、18歳で同校を卒業します。1908年（明治41年）、19歳で第一高等学校理科に入学しました。この頃から、従兄である辻村伊助の影響を受け、山や登山に強い関心を持つようになります。中学4年生の時には既に山岳会へ入会し、積極的に活動していました。

彼の初期の研究における重要な発見は、1911年（明治44年）に飛騨山脈の高峰で行われました。ここで彼は多数の圏谷（カール）や堆石（モレーン）を確認し、これらが氷河作用によって形成された地形であるという考えに基づいた論文を発表します。この発見は、山崎直方が1902年（明治35年）に北アルプスの白馬岳や立山などで報告した小氷河地形の存在を裏付ける、確固たる証拠として大きな意義を持ちました。

1912年（明治45年）には東京帝国大学理科大学の地質学科に入学し、小藤文次郎や山崎直方の指導のもと、本格的に地形学を学び始めます。翌1913年（大正2年）には、日本のカールが万年雪ではなく圏谷氷河の侵食によってできたものであるとする論文を発表し、日本の氷河地形研究における先駆的な業績を重ねました。1916年（大正5年）、27歳で同大学を卒業後、大学院へ進学し、山崎の指導を受けながら地形学を専攻します。この時期は特に火山島の地形研究に注力しました。

教育者・学会活動

学術研究に加え、教育者としても長く活躍しました。1918年には東京高等師範学校の講師となり、1920年には同校の教授に昇任します。同年からは東京帝国大学でも教鞭を執るようになり、1923年には東京帝国大学地理学の助教授となりました。1925年には、師である山崎直方と共に日本地理学会を創設するなど、日本の地理学界の組織的な発展にも貢献しました。1930年には山崎の死去に伴い、事実上、東京帝国大学地理学教室の主任を務めることとなります。1944年には同大学の教授に昇格し、1951年に定年退官しました。定年後も、日本大学で教鞭を執るなど、後進の育成に尽力しました。日本地理学会においては、1939年から1952年まで副会長および会長を務め、学会運営の中心的な役割を担いました。

学術的業績

辻村の業績は地形学全般に及び、氷河地形や断層、山岳地形、古地形の復元など、多岐にわたります。また、語学に堪能であったことから、欧米における最新の地理学の動向にも深く通じていました。その知見を活かし、欧米の地理学の成果を積極的に日本へ紹介し、日本の地理学界に新たな視点をもたらすことに努めました。

特に重要な業績の一つに、アメリカの地形学者ウィリアム・モーリス・デーヴィスが提唱した「地形輪廻説」の日本への紹介があります。1920年代にこの説を知ると、いち早くこれを取り入れ、これを基盤として1923年には日本で最初の本格的な地形学教科書となる『地形学』を刊行しました。この教科書では、欧米と日本の代表的な地形を紹介し、日本の地理学教育に大きな影響を与えました。

その後も、『日本地形誌』（1929年）、『新考地形学』（1932・33年）、『断層地形論考』（1943年）など、地形学に関する重要な著作を次々と発表し、当時の地理学や地学分野に広範な影響を及ぼしました。また、1930年代には景観地理学の重要性を積極的に主張し、ドイツ語のLandschaftに由来する「景観」の概念を人文地理学へ導入する試みを行いました。この提唱は、当時の日本の地理学界に賛否両論を巻き起こし、活発な学術論争を促すきっかけとなりました。

辻村は多くの門下生を育て、その教えを受けた弟子たちは日本各地の大学で地理学教育・研究を担うようになり、日本の地理学の発展に間接的にも大きな影響を与えました。1983年、93歳でその生涯を閉じましたが、彼の学術的遺産は、日本の地理学、特に地形学の基礎として現在も受け継がれています。

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