辻村江太郎

辻村 江太郎

辻村 江太郎（つじむら こうたろう、1924年1月20日 - 2019年没）は、昭和から平成期にかけて活躍した日本の近代経済学者です。理論経済学および計量経済学を専門とし、慶應義塾大学の経済学部・商学部で教鞭を執り、同大学名誉教授の称号を得ました。神奈川県の出身。特に日本における計量経済学的分析の実証研究の先駆者の一人として、その業績は広く知られています。

人物と研究

辻村氏は、経済学研究において厳密な「実証科学」のアプローチを重視しました。理論経済学で得られた知見を応用し、多岐にわたるテーマで精力的な研究活動を展開しました。初期の研究においては、家計の消費行動に関する理論、特にエンゲル係数の分析で知られる消費者行動理論に焦点を当て、重要な業績を挙げました。また、日本経済全体の産業間の相互依存関係を計量的に分析する研究でも先駆的な役割を果たしました。

慶應義塾大学においては、尾崎巌氏、小尾恵一郎氏と共に計量経済学・統計学分野の牽引役となり、「三羽烏」と称されました。経済思想においては、マネタリズムに代表される新自由主義経済学に対しては、批判的な立場を取りました。

その研究成果は日本国内にとどまらず、国際的にも高く評価されました。主な受賞歴として、1968年には著書『消費構造と物価』で日経・経済図書文化賞を、1974年には『日本経済の一般均衡分析』でエコノミスト賞を受賞しています。さらに、1981年には共著書『Economic Policy and General Interdependence』により福沢賞、1997年には日本統計学会賞を受けています。

国家からの栄典としては、1985年に紫綬褒章を、1994年に文化功労者として顕彰され、1996年には勲二等瑞宝章を受章しています。

公的な活動

学術分野での活動に加え、公的な分野でも要職を歴任しました。1984年4月1日から1985年3月31日まで、理論・計量経済学会（現在の日本経済学会）の会長を務めました。また、公務員制度調査会の小委員長をはじめ、国の多くの審議会で委員を務めたり、シンクタンクの要職に就くなど、政策提言や社会貢献にも積極的に関わりました。2003年から2006年3月にかけては、初代の「私のしごと館」館長も務めました。

子息の辻村和佑氏も慶應義塾大学経済学部の名誉教授であり、親子二代にわたって経済学の研究・教育に貢献しました。

略歴

主要な経歴は以下の通りです。

1948年：慶應義塾大学経済学部を卒業
1948年：慶應義塾大学通信教育部講師に就任
1956年：慶應義塾大学通信教育部専任講師に昇任
1957年：慶應義塾大学経済学部兼通信教育部専任講師となる
1958年：慶應義塾大学商学部助教授に昇任
1961年：ハーバード大学へ留学（1962年7月まで）
1963年：慶應義塾大学商学部教授に昇任
1964年：慶應義塾大学より経済学博士号を取得（論文題名「消費者行動の理論 : 消費・需要函数の基礎」）
1972年：慶應義塾大学産業研究所所長に就任（1981年9月まで）
1989年：慶應義塾大学を退職、その後、東洋英和女学院大学教授を務める
2003年：初代私のしごと館館長に就任（2006年3月まで）

主な著書

『日本経済の一般均衡分析』（筑摩書房, 1974年, 黒田昌裕との共著）
Economic policy and general interdependence: A quantitative theory of price and empirical model building. (Kogakusha Limited, 1981, Masahiro Kuroda, Haruo Shimadaとの共著)
『計量経済学』（岩波書店, 2008年, 1981年刊行書籍の再刊）
『OD版 消費者行動の理論－消費・需要函数』（有斐閣, 2005年）
『はじめての経済学』（岩波書店, 2001年）

その他にも多数の著書や論文を発表しています。

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