迎賓館ロケット弾事件

1986年迎賓館ロケット弾事件：未曾有のテロと長期裁判の軌跡

1986年5月4日、東京新宿区で発生した迎賓館ロケット弾事件は、日本のテロ事件史において特筆すべき出来事である。この事件は、当時開催されていた主要先進国首脳会議（サミット）の歓迎式典を標的に、中核派による迫撃弾発射という、前代未聞のテロ攻撃という形で世間に衝撃を与えた。

事件の背景：激動の時代と新左翼の活動

1986年のゴールデンウィークは、昭和天皇の御在位60年記念式典やサミット開催など、大規模な式典が集中していた。新左翼団体である中核派は、これらの国家的イベントを『反動』中曽根内閣の象徴と捉え、反体制運動の一環として、複数のテロ事件を引き起こしていた。迎賓館ロケット弾事件は、その一連のテロ活動における極めて重大な事件であった。

事件の概要：迫撃弾発射と未遂に終わった攻撃

午後4時20分頃、新宿区のマンションから発射された迫撃弾は、迎賓館を目指したとされる。しかし、目標地点から大きく外れ、約1キロ離れた道路に着弾した。迎賓館への被害はなかったものの、着弾地点には直径20センチメートル、深さ5センチメートルの穴が開いたと報道されている。マンションの部屋は犯行グループが事前に準備したもので、窓は自動開閉式に改造されていた。発射装置は5本の発射筒から成る、高度な仕掛けが施されたものであった。

逮捕と長期にわたる裁判：証拠不十分と被告側の主張

中核派が犯行声明とも取れるアジビラを配布したことから、警視庁公安部は中核派の犯行と断定。複数の活動家が逮捕され、爆発物取締罰則違反で起訴された。しかし、逮捕された容疑者らは犯行を否認。検察側は、アジトから押収されたメモ類などを証拠として提示するものの、事件への直接的な関与を示す決定的な証拠は乏しかった。そのため、裁判は長期化の一途を辿ることとなった。第一審では無罪判決が出されたものの、控訴・上告を経て、最終的に複数の被告に有罪判決が言い渡されるまで、長年の歳月を要した。

裁判の経緯：無罪判決からの覆転

第一審では、メモ類に事件に直接言及した記述がないことを理由に、被告3名が無罪とされた。検察の上訴、控訴を経て、高裁は審理不十分を理由に地裁に差し戻し、最高裁もこれを支持。再び始まった裁判では、被告側の不当な訴訟行為が審理の長期化を招いたとされ、懲役刑が言い渡された。別の被告についても、懲役12年の判決が確定している。

事件の意義：テロリズムと国家安全保障

迎賓館ロケット弾事件は、サミット開催という国際的な状況下で起こった、極めて重大なテロ事件であった。この事件は、日本のテロリズム対策や国家安全保障の在り方について、改めて議論を喚起する契機となった。また、長期裁判の過程で明らかになった、証拠の解釈や司法手続きの問題点なども、社会的な関心を集めた。

結論：記憶に残る事件とその後

迎賓館ロケット弾事件は、その大胆な犯行、長期にわたる裁判、そして事件から浮かび上がる様々な問題点から、日本社会に大きな衝撃を与えた事件として記憶されている。この事件は、テロリズムの脅威の現実、そして司法制度における課題を改めて私たちに突きつけている。

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