近江舞子駅 (江若鉄道)

近江舞子駅：琵琶湖の夏の思い出を運んだ駅

1969年（昭和44年）に廃線となった江若鉄道。その沿線には、多くの観光客で賑わった駅が存在しました。その一つが、滋賀県大津市南小松にあった近江舞子駅です。

開業から廃止まで

近江舞子駅は、1926年（大正15年）、雄松駅として開業しました。当時、江若鉄道は各町村に駅を設置する計画でしたが、近江木戸駅から北小松駅間には8キロもの空白区間がありました。このため、地元住民からの要望を受け、雄松駅が開設されたのです。

翌年には路線が延伸し、北小松駅まで開通。そして、1929年（昭和4年）、駅名は雄松崎の景勝地と、兵庫の舞子の浜に似た白砂の浜辺にちなんで「近江舞子駅」に改称されました。

近江舞子駅は、琵琶湖の代表的な水泳場である近江舞子水泳場の最寄り駅として、特に夏期には多くの水泳客で賑わいました。湖岸近くに位置し、周辺には別荘や保養所が立ち並び、太湖汽船による観光船も就航。キャンプ村やホテルなどの宿泊施設も整備され、観光地として発展していきました。

しかし、江若鉄道は1969年10月31日に営業を終了し、近江舞子駅も翌11月1日に廃止となりました。

駅の構造と周辺環境

近江舞子駅は列車交換が可能な交換駅で、島式ホーム1面2線を有していました。旅客と貨物の両方を扱う一般駅で、貨物線と側線を1本ずつ備えていました。駅舎は赤い瓦屋根の三角屋根という特徴的な外観で、観光地らしいおしゃれな雰囲気だったと伝えられています。

駅周辺は、夏期には水泳客で賑わう近江舞子水泳場が広がり、戦前には「千本桜」と呼ばれる桜並木も存在しました。これは、当時の江若鉄道社長の要請で、植物学者笹部新太郎氏が育てた山桜500本を植えたものですが、戦時中の工場疎開や手入れ不足により、多くが失われました。

駅のあった場所は、江若鉄道廃線後に開通した湖西線の近江舞子駅の南方にあたります。廃線後の線路跡は、県道307号に転用され、生活道路として利用されています。

近江舞子駅：消えた夏の賑わい

近江舞子駅は、琵琶湖の美しい景観と、夏の賑わい、そして廃線後の静けさという、様々な時代の流れを映し出した駅でした。その歴史は、写真や文献を通して、今もなお人々の記憶に刻まれています。かつての賑わいを偲び、静かに佇む廃線跡を訪れることで、近江舞子駅の歴史に思いを馳せることができるでしょう。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『企画展 ありし日の江若鉄道 ―大津・湖西を結ぶ鉄路（みち）―』大津市歴史博物館、2006年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号（通巻192号）、鉄道図書刊行会、1967年1月
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング〈NEKO MOOK〉、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

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