近藤正二

近藤正二：食と健康を追求した衛生学者

近藤正二（1893年 2月5日 - 1977年 1月22日）は、日本の医師であり、衛生学者として、人々の健康と食生活の関連性について深く研究しました。東北大学名誉教授の称号を持ち、医学博士としても知られています。

生涯

新潟県新潟市で薬種商の次男として生まれた近藤は、新潟中学校、第一高等学校を経て、1917年に東京帝国大学医科大学医学科を卒業しました。その後、東北帝国大学（現：東北大学）で細菌学教室の助手、講師、助教授を歴任し、1927年に衛生学教室の初代教授に就任しました。

1937年には東北帝国大学医学部長に選出され、1956年に東北大学を定年退官しました。退官後も北海道学芸大学教授として教鞭を執り、その後は宮城学院女子大学や仙台白百合短期大学などで教鞭をとりました。大学での講義を終えて自宅で休んでいる最中に体調を崩し、1977年、胃潰瘍のため東北大学医学部附属病院で亡くなりました。

日本全国の食生活調査

近藤正二は、1935年から約36年もの間、日本全国990ヵ町村を訪れ、各地の食生活と寿命の関係を調査しました。この調査は、彼の代表的な業績の一つであり、その成果は『日本の長寿村・短命村』という著書にまとめられました。

短命の原因と長寿の秘訣

当時の日本は、欧米に比べて高齢者の割合が低く、短命な人が多い状況でした。近藤正二は、この短命の原因を解明するため、長寿村と短命村の食生活を徹底的に比較しました。その結果、寿命に最も大きな影響を与えるのは食生活であることを突き止めました。

長寿村の食生活の特徴は、魚や大豆を十分に食べ、野菜や海藻を多く摂取していることでした。一方、短命村では、米を偏食・大食する傾向があり、魚を大食するものの、野菜をあまり食べないことが明らかになりました。これらの調査結果から、近藤正二は健康長寿のための食生活を提唱しました。

健康長寿のための食生活

近藤正二が提唱した健康長寿のための食生活は、以下の通りです。

米を偏食・大食しない：米の偏食は塩分の過剰摂取を招き、他の栄養素の摂取を妨げます。
肉、魚、卵、大豆を毎日十分食べる：これらの食品はタンパク質の供給源として重要であり、動物性タンパク質と植物性タンパク質のバランスの良い摂取が推奨されます。特に、大豆は納豆として摂取するのが良いとされています。
野菜を多く食べる：様々な種類の野菜を食べることで、必要なビタミンやミネラルを摂取できます。特に、ニンジン、カボチャ、イモを積極的に摂るのが良いとされています。
油を少しずつ毎日食べる：油は寒さや病気への抵抗力を高めます。植物性油が良いとされていますが、動物性油でも良いとされています。
海藻を常食する：海藻は高血圧の予防に効果があります。
なるべく牛乳を飲む：牛乳は体質を強化し、身長の伸長にも効果があります。ただし、高齢者には豆乳が良いとされています。
小魚を頭から食べる：小魚を頭から食べることで、まだ解明されていない栄養成分も摂取できる可能性があります。

近藤正二の願い

近藤正二は、幼少期は虚弱体質で周囲からは長生きできないと思われていましたが、自らの経験から、健康は努力によって改善できると信じていました。彼は、人々が少なくとも70歳まで健康に生きられる社会を願っており、そのための食生活改善を強く訴えました。

その他の業績

近藤正二は、食生活の研究だけでなく、労働環境や学校教育における衛生問題にも積極的に取り組みました。

常磐炭鉱での熱中症対策：坑内作業における熱中症の原因を調査し、湿球温度計を用いた対策を指導しました。
小学校の暖房設置：仙台市の小学校にストーブを設置するよう訴え、児童の健康環境改善に貢献しました。
戦時中の食糧問題：米の配給制による児童の発育低下を指摘し、文部省や厚生省に改善を求めました。また、大豆の重要性を説き、緊急増産を促しました。
学校給食へのミルク導入：戦後の学校給食にミルクを導入するようGHQに提言し、児童の体格向上に貢献しました。

受賞・表彰

近藤正二は、その功績が認められ、数多くの賞を受賞しました。

紀元二千六百年祝典記念章
勲二等瑞宝章
河北文化賞
保健文化賞
藍綬褒章
勲二等旭日重光章
日本医師会最高優功賞
従三位

関連人物

近藤正二は、多くの学者や文化人と親交があり、その交友関係は多岐に渡りました。生理学者の笹川久吾、英文学者の鳴沢寡愆、衛生学者の鯉沼茆吾、生理学者の東龍太郎、衛生学者の緒方益雄、内科学者の佐々貫之、外科学者の都築正男、実業家の石橋正二郎などが、彼の友人として知られています。

また、長男の近藤正太郎は陸上自衛隊医官として活躍し、甥の近藤龍一は東京都副知事を務めるなど、親族も各界で活躍しました。

著作物

近藤正二は、多数の著書や論文を発表し、食生活と健康に関する知見を広めました。

『長寿村ニッポン紀行食生活の秘密を探る』
『日本の長寿村・短命村若いときの食物が決める』
『学童の発育と食べもの学童の体位向上を願って40年』
『その食生活では若死する』
『長寿者の健康食の実態長寿村・短命村の全国調査が教える長生きの秘訣』

まとめ

近藤正二は、日本の衛生学の発展に大きく貢献しただけでなく、人々の健康に対する意識を高め、食生活改善を促しました。彼の研究は、現代の私たちにとっても非常に重要な教訓を与えてくれます。その生涯は、食と健康の密接な関係を明らかにし、人々の健康長寿に貢献した、まさに先駆者というべき存在です。

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