都築正男

都築正男：原爆症研究の先駆者

都築正男（つづき まさお、1892年10月20日 - 1961年4月5日）は、日本の医学者であり、海軍軍医でもありました。最終階級は海軍軍医少将です。彼は「原爆症研究の父」として知られ、被爆者医療と放射線医学の発展に多大な貢献をしました。

生い立ちと医学の道へ

都築は1892年、兵庫県姫路市で開業医の長男として生まれました。兵庫県立姫路中学校を経て、旧制第一高等学校に進学。一高では、芥川龍之介や矢内原忠雄らと同期でした。1917年に東京帝国大学医科大学医学科を卒業後、海軍に入隊。海軍軍医学校選科学生として再び東大に入学し、塩田広重のもとで外科学を学びました。1926年には東京大学で医学博士号を取得しています。

口腔外科と胸部外科の研究

1927年、都築は歯科学教室主任に転出し、顎顔面領域の手術を数多く手がけ、口腔外科の分野で大きな業績を上げました。1929年には口腔外科教室の教授に昇任。1934年には、塩田の後任として外科学第2講座の教授に就任し、胸部外科を専門としました。1939年には海軍軍医少将に進級し、その後予備役に編入されています。

原爆症研究への取り組み

1945年8月、広島と長崎に原子爆弾が投下され、都築の人生は大きく変わります。広島で被爆した女優・仲みどりが東大病院に入院すると、都築は担当医として治療にあたりましたが、仲は亡くなりました。都築は仲の死因を急性放射能症と診断し、世界で初めてカルテに「原子爆弾症」と記載しました。これが「原爆症」という言葉が使われた最初です。これを機に、都築は被爆者や原爆症患者の治療に深く関わることになります。

文部省学術研究会議の原子爆弾災害調査研究特別委員会の医学部門の責任者として、広島での現地調査や被爆者救護活動を精力的に行いました。同年10月には、雑誌『総合医学』に放射能障害に関する論文を発表し、「原爆症」の実態を広く訴えました。

研究発表禁止への反発と公職追放

連合国による占領が始まると、都築はアメリカ側の調査団にも協力しました。しかし、1945年11月、日本学術研究会議の特別委員会でGHQ/SCAPが原爆に関する研究発表を禁止したことに、都築は強く反発。「今、この瞬間にも多くの被爆者が次々と亡くなっている。原爆症はまだ解明されておらず、治療法もない。たとえ命令でも研究発表の禁止は人道上許されない」と主張しました。

このことが原因となり、都築は海軍軍医少将を兼任していたことを理由に、翌1946年に公職追放処分を受け、東大を退官せざるを得なくなりました。

その後の活動

1954年、都築は日本赤十字社中央病院長に就任。同年3月1日にビキニ環礁で行われた水爆実験（キャッスル作戦）で第五福竜丸が被災した際には、医学調査を実施し、衆議院で証言を行ったほか、赤十字国際委員会でも報告を行いました。1956年には原子力委員会の専門委員を務め、1959年には日本放射線影響学会の初代会長に就任するなど、放射線医学の発展に貢献しました。

また、1958年には姫路市から初の名誉市民の称号を贈られました。さらに、日本赤十字中央女子短期大学の学長も務めています。

広島市が編纂した戦後自治体史『広島新史』の「資料編Ⅰ」（1981年刊）は、「都築資料編」と題されており、都築が被爆直後から1946年頃まで収集した被爆者関係資料が収録されています。

著書

『小外科学 四肢篇』克誠堂、1941年。
『医学の立場から見た原子爆弾の災害』医学書院、1954年。

都築正男の遺産

都築正男は、原爆症という未曽有の災害に立ち向かい、その解明と被爆者救済に尽力しました。彼の研究と活動は、その後の放射線医学の発展に大きな影響を与え、「原爆症研究の父」として後世に語り継がれています。

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