近衛前久

近衛前久（このえ さきひさ）の生涯と影響

近衛前久は、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した公卿で、近衛家の17代当主である。彼は天文5年（1536年）、京都で近衛稙家の長男として生を受けた。その生涯は公家としてだけでなく、文化人としても注目される。

前歴と成長

前久は1540年に元服し、足利義晴から偏諱を受け晴嗣と名乗る。その2年後には従三位に叙任され、公卿の仲間入りを果たす。その後、彼は内大臣や右大臣、関白など、次々と高位に昇進し、1555年には従一位に昇叙した。彼の名はこの頃に晴嗣から前嗣に改められたが、これは足利義輝との関係を断つためとも言われる。

上杉謙信との盟約

彼の政治的な行動は、永禄2年（1559年）に上杉謙信と盟約を結んだことにより顕著になった。前久と景虎は血書の起請文を交わし、前久は景虎を頼りに越後に赴き、さらには関東平定を助けるなど、公家としては珍しい行動力を示した。しかし、二面作戦により平定が難航する中、前久は失意の帰洛を決意した。

足利義昭との対立

永禄の変後、前久は将軍・足利義輝の従兄弟でありながら、義輝の正室を保護したことで三好三人衆から慕われ、足利義栄の将軍就任を推奨する果敢な行動を見せた。しかし、織田信長の力を借りて上洛した義昭より、前久が兄の死に関与しているとの疑念を抱かれ、最終的に朝廷から追放された。

織田信長との関係

流浪の身となった前久は、赤井直正を頼りに移り住むが、次第に織田信長との親交を深めていった。特に鷹狩りを通じて信長との関係を結び、信長が包囲網を構築する際には協力を申し出た。天政大臣となるも信長への配慮からすぐに辞任し、政権が変わるたびに流浪を厭わなかった。

本能寺の変とその後

信長の本能寺の変により彼の運命も大きく変わるが、前久は落飾し竜山と号した。光秀の軍事行動による非難から逃れ、徳川家康の元へと向かい、後に秀吉との誤解を解消し再び京都へ戻る。しかし再び波乱が待ち受け、小牧・長久手の戦いを経て奈良に身を寄せることとなった。

隠棲と評価

晩年は慈照寺東求堂で隠棲し、隠れた文化人としての活動を続けた。彼は和歌や連歌の才に恵まれ、多くの歌集を執筆した。また、京都を離れて地方に寄留することで、中央文化の地方への波及にも寄与した。そのため、近衛前久は名門に生まれながらも流浪と衝突の人生を彷徨い、非常に多面的な業績を残した文化人として歴史に名を刻むこととなる。彼は1612年に逝去し、享年77。彼の死は当時の文化や政治に多大な影響を与えた。

もう一度検索