進止

進止（しんし/しんじ）とは

進止とは、進退（しんたい）とも呼ばれ、土地、財産、人間などを自由に支配・処分することを意味する言葉です。この言葉は、古代から現代に至るまで、その意味合いや使われ方が変化してきました。

概要

進止の原義は、「進む」ことと「止まる」こと、つまり「退く」ことを指していました。しかし、この言葉は次第に、自分自身だけでなく他人に対しても同様の指示を行う意味を含むようになり、さらに発展して、人や物を自由に扱うという意味を持つようになりました。

古代

古代の日本では、進止は所勘や沙汰などを含めた広い意味で使用されていました。

中世

中世に入ると、進止は所領や所職に対する充行（あてがい）と没収、あるいは補任（任命）と改易（解任）の権利行使を意味するようになりました。この時代には、進止と類似の概念である「知行」との関連について、法制史の世界で議論がありました。

進止と知行を巡る論争

中田薫は、進止も知行も近代法における占有を意味すると主張し、両者は人間に対する支配権を含むかどうかの違いしかないとしました。しかし、牧健二、石井良助、高柳真三らはこれに反論しました。彼らの主張はそれぞれ異なりますが、概ね知行が不動産に対する用益権の行使を指すのに対し、進止は人事やそれに伴う諸権限の処分権の行使を指すという点で一致しています。進止と知行の両方の権利を有する者は、一円進止（いちえんしんし）と呼ばれました。

近世

近世になると、領主の任免が幕府に集約されたため、進止は土地や財産に対する排他的支配権や私法的処分権を意味するようになり、主に「進退」という表記が用いられるようになりました。

中世における進止の複雑性

中世の土地法制は、複数の領主が存在しうる複雑な構造を持っていました。公家政権と武家政権が並立する状況も、進止の権利関係をさらに複雑にしていました。進止が誰に帰属するのか、実際に誰が行使できるのかは、常に問題となり、定義通りにはいかないことも多くありました。

例えば、一家（親子）や下級領主に関する進止は、親や在地領主など、進止を行うことのできる者が限られていました。この場合、排他的な支配が認められることが一般的でした。しかし、上級領主に関する進止になると、荘官などの現地領主の支配力が強かったり、幕府による地頭人事に本所・領家が介入できなかったりと、その権利行使は様々な要因によって制約を受けました。

また、本所・領家などの上級領主が、その所領の全てを完全に管理することは不可能でした。そのため、荘官などが設置され、実際の支配・処分は彼らに委ねられることが多く、表面上はともかく、上級領主が自由に支配・処分することは困難でした。

まとめ

進止は、時代によってその意味合いや使われ方が大きく変化した言葉です。古代の広い意味から、中世の権利行使、近世の排他的支配へと変化する中で、様々な論争や複雑な構造を生み出してきました。進止の歴史を理解することは、日本の歴史、特に土地制度や権力構造を理解する上で非常に重要です。

参考文献

鈴木英雄「進止」『国史大辞典 7』（吉川弘文館 1986年）ISBN 978-4-642-00507-4
石井紫郎「進止」『日本史大事典 3』（平凡社 1993年）ISBN 978-4-582-13103-1
* 木内正廣「進止」『日本歴史大事典 2』（小学館 2000年）ISBN 978-4-09-523002-3

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