道化師 (カバレフスキー)

カバレフスキー：組曲『道化師』作品26

概要

ドミトリー・カバレフスキーの管弦楽組曲『道化師』作品26（ロシア語原題：Комедианты）は、作曲者の作品の中でも特に広く知られ、演奏される機会の多い楽曲です。全10曲から構成されており、劇場音楽として生まれました。

この組曲は、元々1938年あるいは1939年に、児童文学作家ダニエリ・M（本名マルク・ナウモヴィチ・ミェエロヴィチ、1900-1940）が手掛けた児童劇『発明家と道化役者』（Изобретатель и комедиант）のために書かれた劇付随音楽を基にしています。この劇は、活版印刷の発明者ヨハネス・グーテンベルクと旅回り一座の道化役者たちの物語を描いたものでした。劇付随音楽は全16曲ありましたが、ダニエリ・Mが亡くなった翌年の1940年に、カバレフスキーがその中から10曲を選んで独立した組曲として再構成したのが、現在演奏されている本作です。

組曲版『道化師』は、同年の1940年に当時のレニングラード（現在のサンクトペテルブルク）で初演されました。

楽器編成

この組曲は、以下のようなオーケストラ編成で演奏されます。

フルート（ピッコロ持ち替え）
オーボエ（コーラングレ持ち替え）
クラリネット2
ファゴット
ホルン2
トランペット2
トロンボーン
チューバ
ティンパニ
シロフォン
トライアングル
タンブリン
スネアドラム
バスドラム
シンバル
ピアノ
* 弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

特にシロフォンやピアノの使用は、この組曲の持つ劇場的で色彩豊かな響きに貢献しています。

曲の構成

組曲は以下の10曲から成り、全曲を通した演奏時間は約16分です。

1. プロローグ (Allegro vivace)
組曲の幕開けを飾る、活気にあふれた短い序曲です。

2. ギャロップ (Presto)
この組曲の中で最も有名であり、独立して演奏される機会も多い楽曲です。「道化師のギャロップ」の愛称で広く親しまれています。非常に速いテンポ（Presto）で演奏され、その軽快で躍動的なリズムは聴く者を惹きつけます。日本では、運動会の定番曲として、ヘルマン・ネッケの『クシコス・ポスト』やジャック・オッフェンバックの『天国と地獄』フィナーレなどと並び、多くの人々に親しまれています。

3. 行進曲 (Moderato)
規律正しくも愉快な雰囲気を持つ行進曲です。

4. ワルツ (Moderato)
優雅さとともに、どこか道化芝居の雰囲気を感じさせるワルツです。

5. パントマイム (Sostenuto e pesante)
劇的な場面を思わせる、重々しく、しかし表情豊かな楽曲です。

6. 間奏曲 (Allegro scherzando)
軽妙で遊び心のある、短い幕間の音楽です。

7. 叙情的小シーン (Andantino semplice)
穏やかで美しいメロディーが奏でられる、叙情的な一曲です。

8. ガヴォット (Allegretto)
古風な舞曲であるガヴォットのリズムを用いた、上品で軽快な楽曲です。

9. スケルツォ (Presto assai e molto leggero)
非常に速く（Presto assai）、そして非常に軽く（molto leggero）演奏される、ユーモラスで技巧的な楽曲です。

10. エピローグ (Allegro molto e con brio)
非常に速く（Allegro molto）、輝かしく（con brio）組曲を締めくくる、華やかな終曲です。

『道化師』組曲は、その明快な旋律と色彩豊かなオーケストレーション、そして特に有名な「ギャロップ」の持つ抗いがたい魅力によって、国境を越えて多くの聴衆に愛され続けています。それは単なる児童劇の付随音楽を超え、独立したコンサート作品としても十分に楽しめる、カバレフスキーの代表的な管弦楽曲の一つと言えるでしょう。

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