道南十二館

道南十二館：渡島半島を舞台とした中世の和人拠点

道南十二館は、北海道渡島半島南部に点在した12の和人領主の館の総称です。松前藩の歴史を記した『新羅之記録』にその存在が記されていることから、この名が付けられました。函館市から上ノ国町にまで及ぶ、渡島半島南端の海岸線沿いに位置し、それぞれの館は、アイヌ民族や和人商人との交易、そして領域支配における重要な拠点として機能していました。

黎明期：和人の渡島半島進出

10世紀半ば、渡島半島日本海側では、擦文文化と本州土師器文化が融合した青苗文化が栄えていました。和人が本格的に渡島半島に移住し始めたのは、鎌倉時代末期から室町時代中期にかけてのことです。考古学的証拠から、室町時代後期（14世紀後半以降）に和人の進出が加速したと考えられています。当時、道南地域には「渡党」と呼ばれる独自の住民集団も存在していました。

安東氏の支配と十二館の成立

渡島半島に居住した和人は、津軽安東氏の支配下にありました。1454年、安東政季が南部氏との争いに敗れ、蝦夷地へ逃れると、配下の武将を12の館に配置しました。特に、茂別館、大館、花沢館の館主3名は「守護」に任じられ、他の館主を統率する役割を担ったとされています。しかし、中世北海道に関する歴史記録は乏しく、この後の記述も『新羅之記録』に大きく依存していることに留意が必要です。同書は蠣崎・松前氏の支配の正統性を主張する目的もあったと考えられており、蠣崎氏に関する記述は、この点を踏まえて解釈する必要があります。

コシャマインの戦い

1457年、東部のアイヌ首長コシャマインが和人勢力に反旗を翻し、「コシャマインの戦い」が勃発しました。この戦いで、十二館のうち10館が陥落するなど、激戦が繰り広げられました。翌年、蠣崎季繁の女婿である武田信広によってコシャマイン父子が討たれると、戦闘は小康状態となりますが、その後も断続的に戦闘は続き、十二館は戦略拠点として重要な役割を果たしました。

蠣崎氏の台頭と松前守護職

1496年、松前守護職であった下国恒季が、その悪行を理由に安東氏に訴えられ自害に追い込まれました。後任には相原季胤が就任しましたが、1512年、アイヌの蜂起により松前大館が陥落し、相原季胤らも討ち取られました。1514年、蠣崎光広が大館に入城し、安東氏の承認を得て松前守護職となり、蝦夷地における和人商船からの運上徴収権を獲得しました。この出来事を、蠣崎光広による権力掌握の謀略とする説もあります。これ以降、蠣崎氏の勢力が他の館主に優越するようになり、蠣崎氏による他の館主の被官化が進展していきました。

松前藩の成立と十二館の終焉

1593年、蠣崎慶広が豊臣秀吉から蝦夷島主として承認され、安東氏から独立しました。慶広は松前氏を名乗り、中央政権の承認を背景に支配体制を強化し、近世大名としての松前藩が成立します。その過程で、館主を含む家臣の松前城下への集住が進み、十二館は次第にその役割を終えていきました。

個々の館：発掘調査からわかること

志苔館（函館市）：発掘調査により、土塁や空壕を持つ長方形の館跡が確認され、15世紀前半の陶磁器が出土しました。大量の中国古銭の出土も注目されます。

花沢館・勝山館（上ノ国町）：花沢館は険しい地形に築かれ、規模が小さく、1470年代以前には機能を失っていた可能性が指摘されています。その後、勝山館へと機能が移ったと考えられています。

原口館（松前町）：発掘調査の結果、15世紀ではなく10～11世紀頃の古代集落であることが判明しました。

このように、道南十二館の比定地には不確定な点があり、『新羅之記録』などの文献史料と考古学的調査結果との整合性を検討する必要性があります。これらの調査は、道南十二館の実像解明に貢献しつつ、中世北海道の歴史を紐解く上で重要な役割を果たしています。 今後の更なる調査研究が期待されます。

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