遠山元一

遠山 元一（とおやま げんいち）は、1890年（明治23年）7月21日に埼玉県比企郡三保谷村（現在の川島町）で誕生し、1972年（昭和47年）8月9日に亡くなった日本の実業家、および美術品収集家です。特に、日興證券の創業者および初代会長として知られています。

埼玉県内の豪農の家に長男として生まれた遠山ですが、父の放蕩により生家が没落するという経験をしました。高等小学校を卒業した後、15歳で上京。遠縁にあたる内務大臣秘書官の水野錬太郎のもとで書生として過ごしながら私塾に通います。その後、父の勧めもあり、16歳で東京・日本橋兜町の株屋に丁稚奉公として入りました。約5年間勤めた後、病弱だったことから、より小規模な同業他社に転職しています。

病気や一家没落の不安を抱える中で、遠山は母が通っていた鎌倉メソジスト教会の牧師、美山貫一を頼り、プロテスタントの信仰に入ることで心の支えを得ました。

1918年（大正7年）に独立し、川島屋商店を創業。1920年にはこれを株式会社に改組します。満州事変以降の経済的な好況を追い風に事業は大きく発展しました。その成功により、1936年（昭和11年）には故郷に現在の価値で約120億円とされる巨費を投じ、広大な邸宅を建設。生家の再興を果たし、故郷に錦を飾りました。

1938年（昭和13年）には川島屋證券会社を設立。1944年には川島屋商店を吸収合併しました。その後、大日本證券投資の取締役を経て、同年、旧日興證券との合併により社長に就任します。

第二次世界大戦後、1948年（昭和23年）に新しい証券取引法案が承認され、その運用を担う証券取引委員会が発足すると、遠山は理事会議長という要職に就きました。1950年には、米国の証券業界を視察するため、他社の主要人物と共に渡米しています。1952年（昭和27年）、日興證券の会長に就任。1964年（昭和39年）に会長職を退くまで、戦後日本の証券業界の近代化に献身的に尽力しました。その影響力とリーダーシップから、「遠山天皇」という異名で呼ばれることもありました。

日興證券での職務の傍ら、東京証券取引所理事、経団連評議員・常任理事、東京商工会議所常任理事、日本証券業協会連合会会長など、経済界の重要な役職を歴任しました。また、日本棋院理事や日本教育テレビ（現在のテレビ朝日）取締役も務めるなど、文化・メディア分野にも関与。1964年には大倉喜七郎賞を受賞しています。

長年にわたり収集した貴重な美術品を後世に残すため、1968年（昭和43年）には故郷の邸宅を法人化し、財団法人遠山記念館を設立。敷地内に美術館を建設し、コレクションを収蔵・公開しました。1971年（昭和46年）には川島町の名誉町民に選ばれています。1972年（昭和47年）8月9日、入院先の病院で心不全のため、82歳でその生涯を終えました。

遠山の人物像を示すエピソードとして、長男の一行氏によると、彼はしばしば他者から騙されることがあったものの、それに動じることなく、また決して人を騙すことはなかったといいます。父からは「自分は今まで人にだまされることはあっても、人をだますことはしなかった。自分に万一のことがあったら、そういう精神だけはうけついでくれ」と語られたという言葉が残されています。この言葉は、遠山が実業界で生きた中で大切にした倫理観を物語っています。

遠山の親族には、音楽評論家の長男・遠山一行氏をはじめ、指揮者や出版社社長となった子息たちがおり、また日興證券に吸収された遠山証券の創業者である遠山芳三は従兄にあたります。そのネットワークは多岐にわたる分野に及んでいました。

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