遠藤謹助

明治という新たな時代を長州藩出身の官僚として生きた遠藤謹助（えんどう きんすけ、天保7年2月15日〈1836年3月31日〉生 - 明治26年〈1893年〉9月13日没）は、日本の近代化において重要な役割を担った人物の一人です。後の世に「長州五傑」と称される面々にも名を連ね、特に日本の近代的な造幣事業の確立に尽力した功績から、「造幣の父」としてその名が知られています。

彼の経歴は激動の幕末期に始まります。文久3年（1863年）、遠藤は藩命かあるいは独自の判断かは明確ではありませんが、後に日本の発展に大きく貢献する井上馨、山尾庸三、伊藤博文、井上勝ら合計5名と共に、国禁を犯して英国への密航留学を決行しました。当時の日本にとって未知であった欧州の先進技術や政治体制を学ぶため、彼らは異国の地で厳しい生活を送りながら研鑽を積みました。

慶応2年（1866年）に帰国した後も、遠藤は国際情勢に対応できる能力を発揮します。同年、英国公使ハリー・パークスの提案により、長州藩主である毛利敬親とその息子、そして英国艦隊提督ジョージ・キングとの歴史的な会見が実現します。三田尻で実現したこの会見において、遠藤は井上馨と共に通訳の大任を務め上げました。これは、彼が留学で培った語学力と、国際的な交渉の場に立ち会う経験を得たことを示しています。

明治維新後、遠藤は日本の近代国家建設に不可欠な貨幣制度の確立を担う造幣局において、その手腕を振るうことになります。明治3年（1870年）に造幣局に奉職して以来、明治26年（1893年）に死去するまでの長きにわたり、日本の造幣事業の発展に貢献しました。その道のりは平坦ではなく、例えば明治7年（1874年）には、造幣技術指導の任にあたっていたイギリス人のお雇い外国人技師、トーマス・ウィリアム・キンドルとの間で運営方針や技術論を巡る確執が生じ、一時的に造幣局を離れることになりました。しかし、翌明治8年（1875年）1月、造幣局の運営を請け負っていたオリエンタル・バンクとの契約が終了し、キンドルを含む9名のお雇い外国人が解雇されたことを受け、遠藤は再び造幣局の要職に復帰しました。その後、明治14年（1881年）には造幣局長に昇り詰め、日本人トップとして日本の造幣事業を牽引し、その基盤確立に決定的な役割を果たしたことから、「造幣の父」と称されるようになったのです。

遠藤謹助の功績は造幣事業に留まりません。彼にまつわる有名な逸話として、現在も大阪の春の風物詩として多くの人々に親しまれている造幣局の「桜の通り抜け」があります。明治16年（1883年）、当時の造幣局長であった遠藤の発案と指示によって、局内の美しい桜並木を広く一般に公開することが始まりました。これは、官有施設の公共利用という側面においても先進的な取り組みであり、彼の開明的かつ地域に根差した視点を示す出来事として語り継がれています。

晩年、遠藤は長年の国家への貢献が認められ、明治26年（1893年）6月20日には栄誉職である錦鶏間祗候を拝命しました。しかし、そのわずか数ヶ月後の9月13日にその生涯を閉じました。位階としては、明治17年（1884年）に正五位、明治23年（1890年）には従四位に叙されています。

遠藤謹助は、幕末の混沌とした時代に海外に目を向け、日本の近代化に必要な知識と経験を積みました。帰国後は、近代国家の根幹をなす造幣事業の確立に心血を注ぎ、「造幣の父」と呼ばれるまでの偉業を成し遂げました。また、文化的な側面においても、桜の通り抜けという形で今日の大阪にも残る遺産を残しました。彼の生涯は、日本の黎明期を支えた志士・官僚たちの情熱と献身を物語っています。

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