避状

避状（さりじょう・去状）とは

避状（さりじょう・去状）は、平安時代から江戸時代にかけて見られた日本の古文書の一種です。これは、自己が持つ権利や、その権利が自己に帰属するという主張を放棄する際に作成されました。避文（さりぶみ）や去文（さりぶみ）とも呼ばれます。

概要

避状は、所領、所職、下人など、自己に属する物事に対する権利、またはその権利が自己に属するとする主張を放棄し、以後それらに関する権利を一切主張しないことを保証する文書です。

通常、権利の放棄や移転には、親族への譲渡を示す譲状、家臣への給付を示す宛行状（充文）、寺社への寄進を示す寄進状などがありますが、避状はこれらとは性質を異にします。避状は、支配者からの命令、政治的・軍事的な圧力、裁判での敗訴や和解など、外部からの強制的な要因によって、権利の放棄や移転を承諾せざるを得ない状況下で作成されました。

一方、避状を受け取った側は、作成者との関係において正当な権利者として認められたことを意味します。つまり、避状は単なる権利放棄の文書ではなく、権利関係を確定させる重要な役割を果たしていました。

構成

避状には通常、以下の要素が含まれます。

放棄の対象: 具体的に放棄する権利や対象物。
放棄の主体: 文書を作成し、権利を放棄する人物（通常は差出人）。
権利の帰属先: 放棄された権利が移転する相手（通常は文書の受取人）。
放棄の意思表示: 権利を放棄するという明確な意思を示す文言。

書出しには「避与（さりあたう）」「去与（さりあたう）」「避渡（さりわたす）」「去渡（さりわたす）」「避進（さりすすむ）」「去進（さりすすむ）」などが用いられ、文末には「避進之状如件（さりすすむのじょうくだんのごとし）」「避文如件（さりぶみくだんのごとし）」などを用いて締めくくられることが一般的です。

歴史的背景

後白河院政期には、強制調停の手段として避状が用いられることがありました。これは、紛争解決のために当事者に避状を書かせることで、権利関係を確定させるというものでした。この手法は、後の和与（わよ）と呼ばれる司法手続きの成立にも影響を与えたとされています。

江戸時代に入ると、避状は離婚の際に作成される離縁状としても用いられるようになりました。これは、夫婦間の権利関係を清算し、新たな生活を始めるための重要な文書でした。

まとめ

避状は、単なる権利放棄の文書ではなく、強制的な状況下で権利関係を明確にするために用いられた歴史的に重要な文書です。その内容は、当時の社会構造や法制度を理解する上で貴重な資料となっています。

参考文献

平山行三「避文」『国史大辞典 6』吉川弘文館 1985年 ISBN 978-4-642-00505-0
高橋正彦「避文」『日本史大事典 3』平凡社 1993年 ISBN 978-4-582-13103-1
* 鈴木哲雄「去状」『日本歴史大事典 2』小学館 2000年 ISBN 978-4-095-23002-3

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