那智黒石

那智黒石（なちぐろいし）

那智黒石は、三重県熊野市神川町で産出される黒色の硬質な粘板岩の一種です。新第三紀中新世の熊野層群から採取され、その美しい黒色と独特の質感から、様々な用途に用いられてきました。

概要

那智黒石は、その名の通り、漆黒の色合いが特徴的な石です。江戸時代には、七里御浜で採取されたものが庭園用の玉石として利用され、井原西鶴の『好色一代女』にもその記述が見られます。ただし、「那智黒」という呼称が初めて確認できるのは、天保10年（1839年）に完成した『紀伊続風土記』です。

用途

那智黒石は、その美しい見た目と加工のしやすさから、多岐にわたる用途に用いられてきました。

碁石の黒石: 那智黒石といえば、碁石を思い浮かべる人も多いでしょう。緻密で均質なため、碁石として最適です。黒碁石として広く用いられるようになったのは明治20年頃以降のことです。
硯: 平安時代にはすでに硯の材料として使用されていたとされ、墨をするのに適した性質を持っています。
床置石・装飾品: 和風庭園の装飾や、アクセサリーなどの素材としても利用されています。
那智黒成型品: 那智黒石を粉末状にし、樹脂と混ぜて成型したもので、「那智黒手磨き工芸品」や「ニュー那智黒」として販売されています。
* 試金石: 黒色で緻密なため、金属の条痕色が判別しやすく、試金石としても用いられます。

かつては、熊野市神川町の徳村屋が那智黒石の干支置物を製作していましたが、2023年7月の火災により道具や資料が失われ、惜しまれつつも廃業しました。

産出地をめぐる誤解

那智黒石はその名称から、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町の熊野那智大社周辺が産地であると誤解されることが少なくありません。実際には、産出地は三重県熊野市神川町周辺です。熊野市が1997年頃に行った調査では、多くの辞書や辞典類に誤った記述が見られました。

この問題に対し、熊野市は各出版社に訂正を申し入れ、大半の出版社が誤りを認めました。平凡社は2024年に改訂した『最新 地学事典』で、熊野市神川町産であることを明記しています。

しかし、『広辞苑』においては、初版から長年にわたり産出地が「和歌山県那智地方」と誤って記載されていました。熊野市からの申し入れ後も訂正されなかったため、2013年に報道される事態となりました。岩波書店は、江戸時代の史料に那智地方で産出する旨の記述があることを根拠に、解説文を過去形に変更したと主張し、報道内容に反論しています。

まとめ

那智黒石は、三重県熊野市神川町で産出される貴重な石であり、その美しい黒色と多様な用途で人々に愛されてきました。産地をめぐる誤解もありますが、その歴史と価値は変わることはありません。

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