郡上一揆

郡上一揆：農民と幕府の壮絶な闘い

郡上一揆は、江戸時代中期、現在の岐阜県郡上市周辺を領有していた郡上藩において発生した大規模な農民一揆です。一般的には、宝暦4年（1754年）から宝暦8年（1758年）にかけて展開された一揆を指し、藩主金森頼錦の改易という異例の事態を招き、幕府中枢部の高官も処罰されるという、江戸時代における百姓一揆史上に大きな足跡を残しました。

一揆の背景：疲弊する郡上藩

郡上藩は山間部にある小藩であり、経済的に豊かではありませんでした。藩領の生産性は低く、稲作は気候条件の悪さや獣害の影響を受けやすく、農民の生活は常に苦しいものでした。加えて、金森氏は転封を繰り返したことで財政が逼迫しており、農民への負担は年々増加していました。

すでに延宝年間にも年貢増税を巡る一揆が発生していましたが、宝暦期の一揆は、藩が年貢徴収法を定免法から検見法に変更し、新たに開発された田畑への課税を行うことを決定したことが引き金となりました。この増税は、財政難に喘ぐ藩にとっての最後の手段でしたが、既に限界に達していた農民たちの怒りに火をつけました。

一揆の勃発と展開：抵抗と弾圧の連鎖

当初、比較的裕福な農民や豪農層も一揆に加わりましたが、藩側の弾圧や懐柔策によって、次第に中農や貧農が運動の中心となっていきました。農民たちは藩主への請願や幕閣への訴えなど、様々な手段で抵抗を試みました。

一揆は、藩の検見法採用の一時撤回、幕府代官による検見法再導入命令、農民の強訴、幕府への駕籠訴、そして目安箱への箱訴と、長期にわたって複雑な展開をみせました。その間、藩による弾圧は激化し、一揆勢内部にも意見の対立が生じ、農民たちは常に困難な状況に置かれていました。

一揆勢は、藩の弾圧を逃れるため、郡上郡外の関に拠点を移し、優れた組織運営によって闘争を継続しました。献金制度による資金調達や、情報統制、そして村々における立者（一揆に参加する者）と寝者（一揆に反対する者）の峻別など、現代的な組織運営手法も取り入れていました。

石徹白騒動：藩政の混乱

郡上一揆と同時期に、郡上藩の預地であった越前国大野郡石徹白においても、石徹白騒動が発生しました。この騒動は、野心的な神主の行動が主因でしたが、郡上藩政は、郡上一揆と石徹白騒動の両方に対応せねばならず、大混乱に陥りました。

幕府評定所での裁判：衝撃的な結末

最終的に、郡上一揆と石徹白騒動はともに目安箱への箱訴に発展し、将軍徳川家重の介入により、幕府評定所で大規模な裁判が行われることになりました。裁判の結果、一揆の首謀者とされた農民らに厳罰が下されましたが、驚くべきことに、郡上藩主金森頼錦は改易され、老中、若年寄など幕府高官も多数免職となりました。

江戸時代を通して、百姓一揆の結果、領主や幕府高官がこれほど大規模に処罰された例はありません。この事件は、幕府内部の権力闘争や経済政策の転換点にも影響を与え、田沼意次という新たな政治勢力の台頭を促すことにもなりました。

郡上一揆の意義

郡上一揆は、単なる年貢増税反対の闘争ではなく、農民の厳しい生活、藩の財政難、幕府の経済政策、そして幕府内部の権力闘争といった様々な要因が複雑に絡み合った大事件でした。

農民たちは、伝統的な農村社会秩序を守ろうとする保守的な側面と、厳しい社会状況に対する抵抗という進歩的な側面を併せ持っていました。長期間にわたる闘争を継続できたのは、彼らの結束力と組織力によるものであり、その優れた組織運営は現代においても学ぶべき点が多いでしょう。

郡上一揆は、江戸時代の農民一揆を語る上で欠かせない重要な事件であり、その歴史的意義は、現代においても再考されるべきでしょう。

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