酒匂 (軽巡洋艦)

軽巡洋艦「酒匂」の生涯

建造と竣工

酒匂（さかわ/さかほ）は、大日本帝国海軍が建造した阿賀野型軽巡洋艦の4番艦です。艦名は、静岡県と神奈川県を流れる酒匂川に由来します。1942年11月に佐世保工廠で起工し、「第135号艦」として建造が始まりました。1944年4月1日に「酒匂」と命名され、軍艦籍に入ります。同月9日に進水し、横須賀鎮守府に所属しました。1944年11月30日、酒匂は竣工しましたが、同型艦である阿賀野と能代は既に戦没しており、阿賀野型4隻が揃うことはありませんでした。竣工後、連合艦隊に編入され、佐世保から呉へ回航されました。

戦時中の活動

1944年12月11日、酒匂は第十一水雷戦隊の旗艦となります。阿賀野型軽巡洋艦は水雷戦隊旗艦として優れた性能を持っていましたが、酒匂が就役した頃には、水雷戦の機会はほぼ失われていました。当時、日本海軍は潜水艦や航空機による攻撃で駆逐艦の損耗が激しく、新造艦の早期戦力化と兵員の練成が急務でした。第十一水雷戦隊は、松型駆逐艦や秋月型駆逐艦を主力として、艦艇と兵員の訓練を目的として編成され、酒匂もその一翼を担いました。一時期、回天搭載母艦に改造された軽巡洋艦「北上」や駆逐艦「響」も所属していました。

1945年3月、戦艦大和を中心とした沖縄突入作戦「天一号作戦」が発令されましたが、酒匂は同型艦「矢矧」と共に参加予定だったものの、直前で出撃が中止となります。その後は呉や瀬戸内海の八島で駆逐隊の訓練に従事しました。同年4月1日、第二艦隊に編入され、同月20日には連合艦隊第十一戦隊に編入されました。

坊ノ岬沖海戦での敗北後、日本海軍は大規模な作戦行動が不可能となり、主要な港湾は機雷敷設と空襲の危険に晒されました。呉に残る艦艇の一部は根拠地を移動することとなり、同年5月21日、酒匂は駆逐艦と共に呉を出港し、舞鶴へ向かいました。航海中、触底によりスクリューに損傷を受けます。5月27日、舞鶴に到着しましたが、米軍による機雷封鎖作戦により、6月1日には機雷が敷設されていない小浜湾へ移動しました。その後、燃料不足のため、陸上から電力を供給し、ボイラーの火を消した状態になります。同年6月25日には、小浜湾にも機雷が敷設されました。

終戦

燃料不足により艦隊運用が困難となったため、1945年7月15日に第十一水雷戦隊は解隊。「酒匂」は舞鶴鎮守府部隊に編入されました。特殊警備艦に指定された酒匂は、7月19日に舞鶴湾へ戻りましたが、空襲を避けるため佐波賀の海岸に係留し、対空兵装を陸揚げした上で、甲板に樹木を植えるなど入念な偽装を施しました。偽装した藁に引火する恐れがあるため、対空射撃も禁止されました。同年7月30日の舞鶴・宮津空襲では、港湾内の艦艇に大きな被害が出ましたが、酒匂は無傷で終戦を迎えます。1945年10月5日に除籍されました。

酒匂の終戦時の所在については、舞鶴港外とする説と七尾湾とする説がありますが、第十一水雷戦隊の戦時日誌では、小浜湾に停泊後、舞鶴に移動したことが記録されています。

復員輸送

1945年12月1日、酒匂は特別輸送艦に指定され、釜山、南洋諸島、ニューギニア、台湾などで復員輸送に従事しました。定員約900名に対し、乗員は約300名と少数であったため、武装を撤去し、甲板に居住区やトイレを設置しました。主砲は砲塔を残して砲身のみを撤去、その他、高角砲、魚雷発射管、機銃、各射撃指揮装置なども撤去されました。乗員の不足を補うため、予科練出身者など軍艦勤務経験のない者も集められましたが、船内秩序は維持されていました。

北海道の函館港から朝鮮半島・釜山港へ、朝鮮半島出身労働者を輸送したこともありました。労働者と乗組員の間で対立が起こったこともありましたが、荒天のため交渉は打ち切られます。釜山港では、朝鮮人労務者が英雄として迎え入れられ、乗組員に強い印象を与えました。

ビキニ環礁へ

1946年2月11日、酒匂の艦長を務めた大原利道大佐は転任し、酒匂の艦長の職務を全うしました。同年2月25日、特別輸送艦の指定を解除。その後、核実験「クロスロード作戦」の標的艦として、戦艦「長門」などと共にアメリカ海軍に引き渡されました。東京湾での操縦指導中、意思疎通不足によって主蒸気管が閉鎖されないまま巡航タービンが暴走し、タービン1基が破損する事故が発生しました。ビキニ環礁への移動はアメリカ海軍の乗員によって行われました。

1946年7月1日、ビキニ環礁で行われた核実験では、酒匂は目標艦「ネバダ」の約500～600m地点に配置されました。爆心地点がずれ、ほぼ真上で原子爆弾が爆発したため、強力な爆風により艦橋より後方の構造物は前方へなぎ倒されました。艦尾部分は24時間近く炎上し、浸水が始まりました。7月2日、浅瀬への曳航作業中に左舷に傾斜し沈没しました。現在は水深60mの海底に沈んでいます。

歴代艦長

艤装員長：大原利通 大佐（1944年9月25日 - 11月10日）
艦長：大原利通 大佐（1944年11月10日 - 1946年2月11日）

同型艦

阿賀野 - 能代 - 矢矧

酒匂は、その短い生涯の中で、戦時中は水雷戦隊旗艦として、戦後は復員輸送艦として、そして最後は核実験の標的として、数奇な運命を辿りました。その姿は、太平洋戦争の歴史を語る上で、重要な役割を果たしています。

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