酸素飽和度

酸素飽和度（さんそほうわど、英: oxygen saturation）とは、血液中のヘモグロビンが酸素とどれだけ結合しているかを示す重要な指標です。これは、ヘモグロビンが最大でどれだけの酸素を運べるかという能力に対して、実際に酸素と結びついているヘモグロビンの量がどのくらいの割合を占めるかを百分率（パーセント）で示した値です。全身の組織や臓器に適切に酸素が供給されているかを知る上で、医学や医療の現場で広く活用されています。

酸素飽和度は、一般的にいくつかの略称で呼ばれます。最もよく使われるのはSpO₂（エスピーオーツー）やSaO₂（エスエーオーツー）です。単にSAT（サット）と呼ばれることもあります。これらの略称は、後述する測定方法によって使い分けられることがあります。

この酸素飽和度は、血液中の酸素の圧力を示す酸素分圧（PaO₂）とは異なる概念です。両者は関連していますが、その関係性は直線的ではありません。

定義と計算方法

酸素飽和度の厳密な定義に基づいた算出は、以下の式で行われます。動脈血の酸素飽和度であるSaO₂は、酸素と結合したヘモグロビンの濃度（HbO₂）と、酸素と結合していないヘモグロビンの濃度（Hb）を用いて計算されます。

SaO₂ (%) ＝ 100 ×（HbO₂）/ （Hb + HbO₂）

この計算式の分母（Hb + HbO₂）は、血液中に存在する全てのヘモグロビン量を示しており、これが理論的に結合できる最大の酸素量に相当すると考えられます。分子（HbO₂）は、測定時点で実際に酸素と結合しているヘモグロビン量を示します。つまり、この式は「実際に結合している酸素量」を「最大結合可能な酸素量」で割った割合を百分率で表現したものです。このことから明らかなように、酸素飽和度が100パーセントを超える値になることは構造上あり得ません。

酸素分圧との関係

酸素飽和度は、血液中の酸素分圧（PaO₂）と深い関係がありますが、その関係性は線形（直線的）ではありません。通常、酸素分圧が高くなるにつれて酸素飽和度も上昇しますが、ある程度以上酸素分圧が高くなると、ヘモグロビンの酸素結合が飽和に近づくため、飽和度の上昇は緩やかになります。この関係は「酸素解離曲線」としてよく知られています。

具体的な数値例として、ヒトの場合、健康な状態では酸素分圧が約100 mmHgのときにSaO₂は約98 ％近く、約80 mmHgでは約95 ％、約60 mmHgでは約90 ％近くになります。酸素分圧がさらに低下すると、SaO₂も比較的急速に低下します。例えば、約40 mmHgでは約75 ％、約30 mmHgでは約60 ％、約20 mmHgでは約30 ％程度になると言われています。このように、酸素分圧と酸素飽和度の関係は曲線を描き、非線形であることがわかります。

さらに、この酸素分圧と酸素飽和度の関係は、血液のpH（酸性度・アルカリ性度）や体温など、他の要因によっても影響を受けます。これらの要因によって酸素解離曲線は左右にずれ、同じ酸素分圧であっても酸素飽和度が変化することがあります。

測定方法

酸素飽和度を測定する方法には、主に二つのアプローチがあります。

1. 動脈血採血による測定（SaO₂）：動脈から直接血液を採取し、血液ガス分析装置という専門的な機器を用いて測定する方法です。この方法で得られる酸素飽和度はSaO₂と呼ばれ、非常に正確な値が得られます。しかし、採血を伴うため侵襲的であり、患者さんに痛みや負担をかける可能性があります。

2. パルスオキシメータによる測定（SpO₂）：指先や耳たぶなどにクリップ式のセンサーを装着し、皮膚を通して間接的に測定する方法です。この方法で得られる酸素飽和度はSpO₂と呼ばれ、「経皮的酸素飽和度」の略称です。光の吸収率の変化を利用して測定するため、採血の必要がなく非侵襲的であり、患者さんの負担が非常に少ないのが特徴です。そのため、医療現場や在宅医療、あるいは運動時のモニタリングなど、幅広い場面で手軽に利用されています。

パルスオキシメータは非侵襲的で利便性が高い反面、測定原理上、いくつかの制限があります。例えば、指先の血行が悪い場合や、人工心肺装置使用中で血管の拍動が弱いまたは一定である場合など、血流の状態によっては正確な測定が難しくなることがあります。

正常値

パルスオキシメータで測定される動脈血酸素飽和度（SpO₂）の一般的な正常値は、健康な成人の場合、安静時で通常97 ％以上とされています。この値が90 ％を下回るような場合は、体に酸素が十分に供給されていない状態（低酸素血症）を示唆することが多く、注意が必要です。

酸素飽和度の測定は、呼吸器疾患や循環器疾患など、様々な病態において患者さんの状態を把握するための重要な手がかりとなります。

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