里正

里正（りせい）とは

里正とは、古代中国および近代以前の日本に存在した役職名です。時代や国によってその役割は異なりましたが、おおむね民の最上位、あるいは官の最下位として、官民の境界線上に位置する存在でした。日本の江戸時代における庄屋の原型となり、また庄屋の別名としても用いられました。

概要

里正の制度は古代中国に始まり、春秋時代から明時代まで用いられました。日本へは奈良時代に隋・唐の制度を手本として導入されました。その役割は時代や地域によって異なり、村長に近い存在であったり、村長の補佐役や里の役人であったりと様々でした。その後、江戸時代の庄屋の原型となり、庄屋の代名詞としても使われましたが、藩によって扱いが異なる場合もありました。明治時代に入り庄屋制度が廃止されると、一時的に里正が設置されましたが、すぐに廃止され、その後は使われなくなりました。

中国における里正

古代中国における里正の起源は明確ではありませんが、『韓非子』に里正を罰したという記述があることから、春秋戦国時代以前から存在した可能性があります。確認できる範囲では、周の時代に八家で共同耕作を行い、その耕作地を「里」と呼んだという記録があります（井田制）。秦の時代には、里正（里典）などが戸籍作成の基層を担っていました。当時の秦の政策は厳しく、犯罪の隠蔽は連座の対象となるなど、里正の立場も厳しいものでした。劉邦の登場後、里正は民衆からの支持を得るための重要な役割を担うようになり、道徳教育の普及にも関与しました。唐代には、里正は戸籍の作成にも関わるようになり、読み書きの能力が求められるようになりました。漢代に入ると、里正は民の代表から地方官僚機構の一部となり、治安維持や納税の実務を担うようになりました。里正が管轄する戸数も時代によって変化し、古代中国の井田制では8家でしたが、明代には110戸となりました。

日本における里正

日本においては、奈良時代に隋・唐の制度を手本として里正が導入され、当初は里長と名付けられましたが、すぐに郷長に改められ、その下に里正が設置されました。江戸時代に入ると、里正は廃止される地域と存続する地域に分かれました。廃止された地域では、庄屋や肝煎、名主などの別名として使われました。里正が存続した藩では、庄屋を統括する大庄屋を指したり、庄屋と同等の役職であったり、庄屋の補佐役であったりと、藩によって扱いが異なりました。明治維新後、庄屋制度が廃止されると、里正に改められましたが、すぐに廃止され、その後は使われなくなりました。

江戸時代の庄屋などが里正を名乗る場合、豊かな財力を背景に文化・教養の担い手として活躍しました。彼らは漢文などの教養を身につけ、文化事業や教育事業を支援しました。石坂宗哲の著書『鍼灸説約』のあとがきには、「門人 江左里正 田中信行識」とあり、当時の里正が教養の高い人物であったことが伺えます。幕末には、明治維新の志士として活躍した里正も多く存在しました。江戸時代の里正は農民階級出身者が多かったものの、一部には郷士や武士の出身者もいました。里正出身の著名人としては、中岡慎太郎などが挙げられます（大里正、武士階級）。

脚注

関連項目

里 (行政区画)
日本の律令制
郷里制
漢代の地方制度
京職
郷長
県令
職役
* 睡虎地秦簡

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