野中兼山

野中兼山：土佐藩を支えた改革者、その光と影

野中兼山（のなか けんざん）は、元和元年（1615年）に生まれ、江戸時代初期の土佐藩で家老として活躍した人物です。儒学者としても知られ、その生涯は藩政改革に尽力した一方で、失脚という悲劇も経験しました。

生い立ちと土佐藩での台頭

兼山は播州姫路で生まれ、祖父の妻が山内一豊の妹であったことから、土佐藩との縁がありました。父の死後、母とともに土佐に移り住み、父の従兄弟の養子となります。15歳で元服し、良継と名乗るようになりました。その後、養父とともに奉行職に任命され、頭角を現します。藩主・忠義は、兼山に藩政改革を命じ、兼山は藩の財政を立て直すため、様々な改革に着手しました。

藩政改革の推進

兼山は、まず米の増産に力を入れました。堤防の建設や平野部の開拓、物部川に山田堰を築き灌漑を行うことで、新田開発を推し進めました。その結果、7万5千石もの収穫増を達成したと言われています。また、森林資源の有効活用や和紙の材料となる楮栽培、鰹節づくりなども奨励し、藩の財源を増やしました。さらに、乱伐を避けるための輪伐制や、藩内製品の販売促進のための築港も行いました。身分にとらわれず人材を登用し、藩外からも様々な技術者を招き、殖産興業を積極的に行いました。その結果、藩財政は大きく好転しました。

改革の影と失脚

兼山の改革は、藩財政を立て直す一方で、領民に過酷な年貢を課し、華美贅沢を禁止するなど、厳しい政策を行いました。その結果、領民の不満は高まり、逃散する者も出るほどでした。また、郷士を重用したことで上士の反発も買い、藩内で対立が深まっていました。明暦2年（1656年）に藩主が忠義から忠豊に代わると、兼山は引き続き重用されましたが、寛文3年（1663年）には、兼山の施政に不満を持つ家臣たちによって、藩主・忠豊に弾劾状が提出されました。その結果、兼山は失脚し、隠居生活を送ることになりました。この政変は「寛文の改替」と呼ばれています。

失意の晩年と死、そしてその後の影響

失脚後、兼山は思い入れのあった山田堰近くに隠棲しましたが、失脚から3ヶ月後、吐血して死去しました。家族も宿毛に配流され、男系が絶えるまで幽閉されるという過酷な報復を受けました。兼山の死後、民衆はひそかに小祠を建てて神として崇め、後に春野明神として公称されました。

多岐にわたる業績

兼山の業績は多岐にわたります。

土木事業: 山田堰、手結港、津呂港など、優れた技術を用いた土木事業を数多く手がけました。特に、手結港は日本最初の掘り込み港湾として知られています。
社会・風教改革: 念仏講の設立やハンセン病患者の葬儀、土葬の推奨など、社会福祉や道徳観の向上にも尽力しました。また、米価調節令を制定し、物価安定にも取り組みました。
殖産興業: 捕鯨、陶器、養蜂などの技術者を招き、新しい産業を導入しました。また、鯉やナマズ、シラウオなどの養殖にも取り組み、食文化の発展にも貢献しました。

エピソード

兼山には、以下のようなエピソードが残されています。

垂加神道の山崎闇斎を保護した。
儒教の教えを強く守り、同姓の妻と離縁した。
母の葬儀を儒葬で行ったことで、キリシタンではないかと疑われた。
労働者の休憩を制限したため、労働者が大便を偽装して抵抗した。
「春兎通ったあとが百貫目」という逸話。
* 葬儀で泣いた人に褒美を与える「泣き賃」を導入した。

遺産

兼山の功績を称え、現在も高知県内には兼山を祀る神社があります。また、小説や映画など、様々な作品で兼山を題材としたものが作られています。

野中兼山は、土佐藩の発展に大きく貢献した人物ですが、その一方で、民衆に過酷な負担を強いたという側面も持っています。彼の生涯は、改革の光と影を私たちに教えてくれます。

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