野口悦男

温泉文化の功労者：野口悦男氏の生涯と足跡

野口悦男氏（1947年12月12日-2008年11月23日）は、日本の温泉文化発展に多大なる貢献をした評論家、ジャーナリストでした。

氏は、数々の造語を生み出したことで知られています。「にごり湯」「野湯」「立ち寄り湯」「源泉掛け流し」など、現在では温泉を語る上で欠かせないこれらの言葉は、野口氏の造語が広く浸透した結果、温泉関係の書籍や観光案内などに日常的に用いられるようになりました。これらの言葉が、温泉の魅力を的確に表現し、温泉文化の理解を深める上で重要な役割を果たしていることは間違いありません。

野口氏は、冒険家としても知られていました。國學院大學在学中は山岳部に所属し、写真家である三木慶介氏に師事。世界各地を巡り、山岳カメラマンとして活躍しました。ヒマラヤ山脈ナンダ・デヴィでのスキー縦走など、数々の冒険を経験しています。しかし、怪我を理由に山岳カメラマンを引退した後、日本各地の温泉に入浴することに傾倒していきました。

山麓の温泉地で撮影した写真がきっかけとなり、1970年代半ばからは日本テレビ系列の深夜番組『11PM』の秘湯紹介コーナーに協力。温泉との関わりを深めていきました。1998年には大動脈解離で倒れるも、投薬と通院を続けながら取材活動を継続。2000年には日本の温泉3000湯、2007年には3292湯の入湯を達成、訪れた温泉宿は延べ8000軒を超えるという驚異的な記録を残しました。

野口氏の活動は、入浴と取材だけにとどまりません。多くの著書を執筆したほか、ムックの監修や雑誌への寄稿など、精力的に執筆活動を行いました。2001年には、自然のままの温泉を守るため「日本温泉遺産を守る会」を創設し、代表に就任。温泉を取り上げた旅行番組への出演や、温泉関連ウェブサイトへの言及も多く、「温泉達人」として広く知られるようになりました。

「日本秘湯を守る会」との関係も深く、同会長である佐藤好億氏の弔辞には『「日本秘湯を守る会」が現在のかたちで存在するのは、野口悦男さんのご苦労の賜物である。』と記されています。これは、野口氏が秘湯の保護と普及にどれほど貢献したかを物語っています。

晩年は「温泉の文化と安心を考える会」の発足準備にも携わっていましたが、2008年11月23日、胸部大動脈瘤破裂により急逝。死去の直前まで、精力的に温泉の入浴と取材を続けていました。

主な著書には『日本百名湯』（山と溪谷社）、『極上にごり湯百選』（山と溪谷社）、『温泉遺産 -源泉かけ流しの宿と歴史的建造物、温泉文化のすべて』（実業之日本社）、『湯仙人野口悦男の温泉260選』（七賢出版）など、多数の書籍があります。これらの著作は、現在も多くの温泉愛好家に読まれ、温泉文化の理解を深める上で重要な役割を果たしています。

野口悦男氏の功績は、単なる温泉愛好家としての枠を超え、日本の温泉文化を未来へと繋ぐ重要な役割を果たしました。彼の情熱と探究心は、多くの温泉愛好家に大きな影響を与え続け、日本の温泉文化の礎となっています。

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