野川中洲北遺跡

野川中洲北遺跡とは

野川中洲北遺跡は、東京都小金井市中町一丁目に位置する複合[[遺跡]]で、後期旧石器時代から縄文時代、奈良・平安時代、中世、そして近世に至るまでの、非常に長い期間にわたる人々の活動の痕跡が確認されています。この遺跡は、隣接する野川中洲遺跡（小金井市No.17遺跡）とともに、武蔵野台地の南端、国分寺崖線の南側に位置し、立川面に広がっています。

遺跡の概要

この遺跡は、野川第二調節池の建設に伴う発掘調査によって詳細が明らかになりました。調査の結果、後期旧石器時代から近世にかけての集落跡であることが判明しています。特に、後期旧石器時代には、前半期から終末期にかけての8層もの遺物包含層が確認されており、当時の人々の生活様式を知る上で非常に貴重な資料となっています。縄文時代には、草創期や早期の遺物がまとまって出土しており、後期には竪穴建物跡や掘立柱建物跡も見つかっています。平安時代には、建物跡は明確ではありませんが、土坑やピットから土師器や須恵器が出土しています。中世には、溝状遺構や掘立柱建物と考えられるピット群が発見されました。近世の遺構は明確ではありませんが、陶磁器が出土しています。

この遺跡の特徴は、野川の低地と隣接する低位段丘面が、後期旧石器時代から近世まで断続的に利用されていたことです。かつて野川は南側に蛇行し、低地には複数の支流がありました。遺跡の北側は国分寺崖線に接し、南側は野川の主流路と支流に挟まれた中洲状の低位段丘面に位置していました。しかし、河川改修と調節池の建設によって、旧地形の確認は難しくなっています。

地形と地質

発掘調査の結果、台地部では立川ローム層Ⅹ層までの堆積が確認され、その下には礫層があります。これは立川1面に相当します。調査区内には、Ⅹ層の下やⅣ層の下に泥炭層があり、かつて凹地や谷が形成されていたことが示唆されます。また、低地部には縄文時代草創期から早期にかけて埋没した谷が確認されています。

周辺の遺跡群

野川左岸の立川面には、西側に新橋遺跡、東側に武蔵野公園低湿地[[遺跡]]が位置しています。野川を挟んだ右岸には七軒家遺跡、その西には前原遺跡があります。また、国分寺崖線上の武蔵野面には、栗山遺跡や中山谷遺跡、ICU構内遺跡群などがあり、これら全体で野川流域遺跡群を形成しています。

調査の歴史

1984年から1986年にかけて、野川第二調節池の建設に伴い大規模な発掘調査が行われました。調査面積は8,650平方メートルに及び、小金井市域では最大の発掘調査となっています。調査は台地部を中心に、斜面や埋没谷も対象に行われ、低湿地部では泥炭層の調査や古環境復元のための分析が行われました。一方、南に隣接する野川中洲遺跡は、1970年頃に石器が採集されたことで遺跡として認識されましたが、発掘調査は行われておらず、現在は都立武蔵野公園の一角となっています。

主な遺構と出土品

主な遺構としては、石器集中部、礫群、炭化物集中部、竪穴建物跡、掘立柱建物跡、土坑、溝などがあります。出土品には、ナイフ形石器、石槍、スクレイパー、局部磨製石斧、有舌尖頭器、片刃石斧、石鏃、打製石斧、磨製石斧、スタンプ形石器、石皿、縄文土器（隆起線文土器、爪形文土器など）、土偶、土師器、須恵器、瓦、刀子、陶磁器（中世・近世）など多岐にわたります。

遺跡の変遷

後期旧石器時代

遺跡では、前期から終末期にかけて8枚の文化層が確認されました。最も古い東区Ⅹ層の包含層は、立川礫層との比高が1ｍ程度であり、離水後間もない時期から人々が居住していたと考えられます。前半期には多数の礫群が構築され、第Ⅰ泥炭層からは大型木片が出土しており、人工遺物の可能性が指摘されています。

前半期
東区Ⅹ層からは、石器32点が集中して出土しました。チャート製やホルンフェルス製のものが多く、礫群は伴いませんでした。東区Ⅸ層では、98点の石器が出土し、配石が1基確認されました。東区Ⅶ層では礫群が1基検出されましたが、石器は出土しませんでした。西区Ⅵ層と東区Ⅵ層からは少数の石器と礫群が出土しています。

後半期
東区Ⅴ層からは、黒曜石製の石器と礫群が検出されました。西区Ⅳ下層からは、354点の石器が出土し、礫群が6基確認されています。西区Ⅳ中層からは、29点の石器と礫群が2基発見されました。東区Ⅳ下・中層からは、3356点もの石器が発見され、45カ所の礫群や配石が伴いました。東区Ⅳ上層からは、262点の石器と礫群、配石が確認されました。

終末期
西区と東区のⅢ層からは、ナイフ形石器や石槍、細石器が出土しました。西区Ⅲ層からは、4270点もの石器と礫群、配石が発見され、東区Ⅲ層からは、少数の石器と礫群、配石が見つかりました。黒曜石の産地分析から、神津島や麦草峠など、遠方からもたらされた黒曜石が使用されていたことが明らかになっています。

第Ⅰ泥炭層
東区の東～中央で検出され、コナラやハンノキなどの大型植物遺体が出土しました。大型のコナラの木片が人工物の可能性が指摘されています。

第Ⅱ泥炭層
東区の北西で検出され、カラマツやトウヒなどの針葉樹が多く見つかりました。台地部のⅣ下・中層からは礫群が連続して検出されています。

縄文時代

西区埋没谷では、草創期と早期の遺物集中地点が見つかり、台地部では後期の集落が確認されました。

草創期
西区埋没谷下層から、隆起線文土器、無文土器、爪形文土器などの土器片や、有舌尖頭器、石槍、片刃石斧などが出土しました。遺物包含層は白色粘土化しており、二次的な堆積と考えられています。

第Ⅲ泥炭層
草創期の遺物が出土した埋没谷で検出され、オニグルミ、コナラ、ハンノキなどの植物遺体が見つかりました。

早期
西区埋没谷上層から、撚糸文土器や、石鏃、磨石、スタンプ形石器、石皿などが出土しました。居住域は、武蔵野面にあったと推定されています。

後期
西区台地部で、竪穴建物跡3棟、掘立柱建物跡1棟、土坑、ピット、集石などが検出されました。掘立柱建物跡からは堀之内式土器が出土しており、小規模な集落であったと考えられています。

古代

西区では、土坑やピットから土師器、須恵器、瓦などが出土しました。8世紀中葉から9～10世紀頃のものと推定されるものがあります。

中世

西区と東区で溝や土坑、ピットが検出され、掘立柱建物を構成する柱穴が含まれていると考えられます。陶器片、板碑片などが出土しており、14世紀代のものが多く、鎌倉時代末期から室町時代前半にかけての時期のものと推定されています。

近世

遺跡周辺は、江戸時代には小金井村に属していました。発掘調査範囲では、近世の遺構は検出されていませんが、陶磁器が出土しており、18世紀頃から遺物の数量が増加しています。これは人口増加や生活基盤の安定化を示唆していると考えられます。

野川中洲遺跡

野川中洲北遺跡の南側に位置するこの遺跡は、かつては野川の主流路と支流に挟まれた中洲上の微高地にありました。1970年頃に石器が採集され、終末期のものと考えられる特徴的な石槍や、後半期のものと思われるナイフ形石器、石刃などが発見されました。

出土資料

野川中洲北遺跡の出土資料の一部は、小金井市文化財センターに展示されています。特に、旧石器時代の石器群や植物遺体は、小金井市指定有形文化財に指定されています。

まとめ

野川中洲北遺跡は、後期旧石器時代から近世に至るまでの、長期にわたる人々の生活の痕跡を示す貴重な遺跡です。出土した遺構や遺物からは、当時の生活様式や文化、そして武蔵野台地の自然環境と人々の関わりについて多くの情報を得ることができます。この遺跡は、隣接する野川中洲遺跡とともに、地域の歴史と文化を理解する上で、非常に重要な場所と言えるでしょう。

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