野田城の戦い

野田城の戦い

戦いの概要

野田城の戦いは、元亀4年（1573年）1月から2月にかけて、三河国野田城を舞台に、武田信玄率いる武田軍と徳川家康率いる徳川軍の間で繰り広げられた戦いです。この戦いは、武田信玄による西上作戦の最終盤における重要な戦いであり、三方ヶ原の戦いと関連付けて語られることも多く、信玄にとっては生涯最後の戦いとなりました。

合戦の経緯

背景

元亀3年9月、武田信玄は3万の大軍を率いて西上作戦を開始し、徳川家康の領地である遠江と三河に侵攻しました。同年12月には三方ヶ原の戦いで徳川・織田連合軍を破りましたが、その後、浜名湖北岸で越年し、元亀4年1月10日に同地を出発、宇利峠を越えて三河に侵入しました。そして、豊川を渡河後、徳川方の属城である野田城を包囲しました。

一方、徳川家は三方ヶ原の戦いの大敗により、戦線を維持する余裕がなく、援軍も期待できない状況でした。野田城は、元亀2年の武田軍侵攻時に落城した大野田城を改築したもので、その教訓から防御機能が強化されていました。

野田城攻防戦

野田城は『三河物語』に「藪の中に小城あり」と記されるほどの小規模な城で、城将・菅沼定盈とその援軍を合わせても兵力は500人程度でした。しかし、河岸段丘の地形を利用した築城により、攻め口が限られ、武田の大軍に対しても有利な構造となっていました。武田軍は力攻めを避け、甲斐から金山掘りを呼び寄せて坑道を掘り進め、水の手を断つ作戦を実行しました。

これにより、野田城は1ヶ月間持ちこたえましたが、2月16日に城兵の助命を条件に開城降伏し、定盈は捕虜として武田軍に連行されました。

合戦後

野田城の陥落は、徳川家の三河防衛網を崩壊させ、吉田城や岡崎城などの重要拠点を危機に陥れました。しかし、武田軍は信玄の病状が悪化したため侵攻を中止し、甲斐へと撤退しました。その撤退中に信玄は死去しました。

3月10日、城主・定盈は徳川家と武田家の人質交換により解放されました。信玄の死が広まった後、家康は長篠城を奪還しましたが、野田城も翌天正2年（1574年）に定盈によって奪還され、定盈が再び城主となりました。

その他

侵攻の遅さ

野田城の戦いは、これまでの武田軍の戦いに比べて非常に遅かった点が指摘されています。二俣城のような要衝ではなく、小城である野田城に対し、圧倒的な兵力差があったにもかかわらず、武田軍が消極的な戦術をとったことには様々な説があります。特に、野田城攻略前に刑部村に長期間滞在したことも、信玄の病状悪化が原因であるとする説が有力です。

狙撃伝説

信玄は、西上作戦中の元亀4年（1573年）4月12日に信濃伊那郡駒場で病死したとされています。しかし、後世には、野田城包囲中に狙撃された傷が死因であるという説も生まれました。『松平記』によると、信玄が美しい笛の音に誘われて本陣を出たところを、定盈の家臣・鳥居三左衛門に狙撃されたとされています。

うでこき山

豊川を挟んで野田城を見下ろす標高125mの小山は、武田軍の精鋭（腕のたつ者）が軍議を開いたことから「うでこき山」と名付けられたと伝えられています。ただし、この由来には異説もあり、新城市の郷土史では、神様が琵琶湖を作る際に付いた土埃が落ちてできた山であるとも紹介されています。

新説

近年、野田城攻撃の理由に関する新説が登場しています。武田軍の目的は、陸から吉田城・田原城を制圧し、海からは海賊衆を派遣して遠州灘・三河湾を制圧することで、徳川家康の居る浜松城と嫡男信康が居る岡崎城との連絡・物流を遮断し、浜松城を兵糧攻めにしようとしたというものです。この説を裏付けるように、『三河物語』には信玄が渥美郡に向かったと記されており、田原城が武田の海賊衆に襲撃されたという記録も残っています。野田城を落とせば、兵力の薄い吉田・田原両城の陥落、ひいては浜松城周辺の封鎖まで進む可能性があったとされています。しかし、野田城は攻略できたものの、信玄の病状悪化により吉田城攻略に向かうことができず、作戦は中断を余儀なくされたと考えられています。

脚注

関連項目

野田城
風は山河より（宮城谷昌光）- 野田城主・菅沼家を主人公とした歴史小説

外部リンク

* 野田城　語り継がれる信玄銃撃説　朝日新聞

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