野良犬イギー

概要

『野良犬イギー』は、2022年 5月19日に集英社から刊行された乙一による小説です。荒木飛呂彦の漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのスピンオフとして位置づけられています。本作は、『JOJO magazine 2022 SPRING』に掲載されたもので、乙一にとっては2007年の『The Book』以来となる『ジョジョ』シリーズを題材とした作品です。

乙一は過去にノベライズのオファーを固辞した経験から、本作ではスタンドバトルの表現に再挑戦したいという意欲を持って執筆に取り組みました。また、編集部からの「子供に人気のキャラクターで」という要望と、自身がボストン・テリアを飼い始めたことが、イギーを主役にするきっかけとなりました。

執筆にあたっては、原作やアニメに登場する台詞や絵をどこまで忠実に再現するかという点に苦心したとのことです。例えば、アヴドゥルが映画『ミッドナイト・ラン』好きという設定を踏まえ、物語内に映画を鑑賞するシーンを組み込み、また、ジョセフとアヴドゥルの出会いを原作の設定に合わせてアメリカにしたそうです。

荒木飛呂彦からは、科学的な知識を盛り込んでほしいという要望があり、乙一は「砂」の性質や定義について徹底的に調査し、科学的なトリックを導入しました。『ジョジョ』の世界観を表現するため、キャラクターが勝利への執念をむき出しにする姿を意識し、「みっともないぐらいまであがく」ように描かれています。

あらすじ

物語の舞台はアメリカ。ジョン・F・ケネディ国際空港に降り立った一人の男は、友人の依頼で野良犬の捕獲を試みます。その犬はボストン・テリアと思われ、マンハッタン島で問題行動を起こしており、害獣駆除業者も手を焼くほどでした。しかし、犬の周りで起こる不可解な「砂」の現象によって捕獲は困難を極めます。調査の結果、犬のイギーがスタンド能力を持っていると結論付けたスピードワゴン財団は、モハメド・アヴドゥルに協力を求め、DIOよりも先にイギーを確保しようとします。

登場人物

イギー

『ジョジョの奇妙な冒険 Part3』に登場する犬のスタンド使いです。体長約30cmの小型犬で、ボストン・テリアという犬種で、単独行動を好みます。コーヒー味のチューインガムを好んでおり、マンハッタン島ではガムを巡る騒動を起こしていました。ニューヨーク市からの苦情を受け、害獣駆除業者に狙われることになりますが、「砂」の力で逃げおおせていました。財団はイギーが「砂」を操るスタンド能力を持つと推測し、DIOより先に捕獲を試みます。当初は余裕を見せていたイギーですが、アヴドゥルのマジシャンズレッドと対峙してからは慎重になり、足取りを隠すようになります。マンハッタンの廃墟に潜伏していましたが、アヴドゥルによって居場所を特定され、激しい戦闘の末、相打ちのような形で捕獲されました。その後、財団に保護され治療を受けています。

本作では、イギーの過去が掘り下げられ、マンハッタン島に来る前はブルックリンの豪邸で富豪に飼われていたことが明かされます。飼い主との関係が悪化し、「砂」を操る能力を覚えた後、嫌がらせを繰り返す中で人間を見下すようになります。かつて世話をしてくれていたアジア人女性との散歩中に、コーヒー味のチューインガムに執着し、菓子店を荒らした後、豪邸を去りマンハッタンへやってきたという過去が語られます。

モハメド・アヴドゥル

『ジョジョの奇妙な冒険 Part3』に登場する、エジプト出身のスタンド使いで、ジョセフ・ジョースターの友人です。ジョセフの依頼でイギーを捕獲するためアメリカを訪れ、財団の調査報告を受けます。その後、「野良犬狩り」に参加しイギーと接触しますが、取り逃がしてしまいます。イギーのスタンドを「ザ・フール（愚者）」と名付けた後、ジョセフの協力も得てイギーの居場所を特定、激闘の末、重傷を負いながらも捕獲に成功しました。イギーを財団に引き渡した後、日本にいるジョセフの孫に会うために日本へ旅立ちます。

本作では、アヴドゥルの過去も独自に描かれており、由緒ある家系の次男として生まれ、軍人の父と占星術師の母を持つことが語られます。両親を戦争や事件で亡くし、孤児となったアヴドゥルは、母親から受け継いだ占いの才能で生計を立てるようになります。スラム街で生活しながらも、両親の勇敢な姿を誇りに思い、悪の道には進みませんでした。1985年、富豪の専属占い師としてイギリスのパーティーに参加した際、ジョセフと出会い、マジシャンズレッドの力を見せたことで親交を深めました。

ジョセフ・ジョースター

『ジョジョの奇妙な冒険 Part3』に登場するスタンド使いで、アヴドゥルの友人です。作中ではオーストラリア旅行中に、財団からの情報を受け、ハーミットパープルの念写でイギーの居場所を絞り込み、捕獲に協力します。その後、ニューヨークを離れるアヴドゥルと合流し、日本にいる孫に会ってほしいと頼み事をします。

本作では、1985年にイギリスのパーティーでアヴドゥルと出会った際の様子が描かれています。アヴドゥルのマジシャンズレッドを視認したことをきっかけに、交流が始まりました。

スパニッシュ

本作オリジナルの登場人物で、害獣駆除業者「Reliable Pest Control Service（RPCS）」の社員です。大柄な中年男性で、名前は不明ですが、スパニッシュ系であることからそう呼ばれています。以前にイギーの捕獲を試みた際に右目に爪痕が残っており、イギーを捕獲することに執念を燃やしていました。「野良犬狩り」ではイギーを捕獲できず、会社がイギー捕獲から撤退を決めたことに憤慨しました。その後、アヴドゥルとイギーを捕獲したら酒を奢ると約束を交わし、捕獲後にはRPCSのメンバーと飲みに行っています。

ラガーマン

本作オリジナルの登場人物で、RPCSの社員です。名前は不明ですが、大柄な白人男性のため「ラガーマン」と呼ばれています。「野良犬狩り」ではイギーの捕獲を試みますが、軽くあしらわれています。

大富豪

本作オリジナルの登場人物で、ブルックリンに住むイギーの元飼い主です。30代の男性で、祖父の代から貿易業で財を成した家系の生まれです。会社ロゴから「ミスターエレクトラ」「E氏」とも呼ばれていました。イギーとの関係が悪化したことで、野良犬になるきっかけを作りました。ペットとして数匹の犬を飼っていましたが、愛犬家ではなく、イギーがいなくなった後はすぐに別の犬を購入しています。

書誌情報

乙一（著）・荒木飛呂彦（original concept）、『野良犬イギー』集英社（ジャンプ・ジェイ・ブックス）、2022年 5月19日発売、ISBN 978-4-08-790073-6

外部リンク

ジャンプ・ジェイ・ブックス『野良犬イギー』

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