野見山朱鳥

野見山朱鳥（のみやま あすか）

福岡県出身の俳人、野見山朱鳥は、1917年に生まれ、1970年に52歳で生涯を閉じました。本名を正男（まさお）といい、高浜虚子に師事し、俳誌「菜殻火」を主宰しました。

生涯

1917年、福岡県直方市に生まれた野見山朱鳥は、1935年に県立鞍手中学校を卒業後、結核を患い、3年間の療養生活を送ります。1938年に健康を回復し、東洋精機に入社しましたが、1939年には鈴木千久馬絵画研究所で美術を学び始めます。しかし、1942年に病気が再発し、療養所での入院生活を余儀なくされます。この療養中に俳句を詠み始め、1945年に高浜虚子に師事、「ホトトギス」に投句するようになりました。1946年には末崎ひふみ（野見山ひふみ）と結婚し、同年の「ホトトギス」600号記念号で巻頭を飾り、注目を集めます。

1948年、古賀晨生の後を継いで「飛蝗」の撰者となり、翌年には「飛蝗」を「菜殻火」と改題し、主宰誌とします。1952年には、「菜殻火」を一旦解散しますが、福岡で再刊します。1958年には、福田蓼汀、橋本鶏二、波多野爽波とともに四誌連合会を発足させ、新人の育成に尽力しました。しかし、肺の病が悪化し、晩年は療養生活を送ることになります。1970年2月26日、肝硬変により、飯塚市の飯塚病院で亡くなりました。

作風

野見山朱鳥の句は、その情景を鮮やかに描き出すだけでなく、内面の感情や生命観を深く表現しているのが特徴です。代表的な句には、

火を投げし如くに雲や朴の花
生涯は一度落花はしきりなり
秋風や書かねば言葉消えやすし
曼朱沙華散るや赤きに耐えかねて
つひに吾れも枯野のとほき樹となるか
眠りては時を失ふ薄氷

などがあります。

美術の才能にも恵まれていた野見山朱鳥は、同じく病弱で画家の道を諦めた俳人、川端茅舎に傾倒し、茅舎と同様に「如く」を用いた句を多く詠みました。高浜虚子は、朱鳥の第一句集『曼珠沙華』の序文で、「曩（さき）に茅舎を失い今は朱鳥を得た」と述べ、亡き茅舎と並び称えました。しかし、第二句集『天馬』の序文では、客観写生と具体化が不十分であると不満を表明しました。その後、朱鳥は、客観写生の理念から離れ、「季題を通して永遠の生命に触れようとする詩精神」として「生命諷詠」を説き、独自の浪漫的な心象詠の道へと進みました。生涯の多くを病床で過ごしたため、病床詠も数多く残しています。

著書

句集

曼珠沙華（1950年）
天馬（1954年）
運命（1962年）
野見山朱鳥全句集（1971年、句集『幻日』『愁絶』を併録）

評論

純粋俳句（1949年）
忘れ得ぬ俳句（1952年）
続忘れ得ぬ俳句（1955年）
助言抄（1961年）
俳句への招待（1967年）
川端茅舎（1968年）
川端茅舎の俳句（1969年）

全集

野見山朱鳥全集（1990年）

参考文献

稲畑汀子・大岡信・鷹羽狩行 『現代俳句大辞典』 三省堂、2005年
野見山ひふみ編 『野見山朱鳥句集 朱』 ふらんす堂文庫、1992年

関連文献

野見山ひふみ編 『野見山朱鳥の世界』 梅里書房、1989年

外部リンク

現代俳句データベース 野見山朱鳥の俳句
* 増殖する俳句歳時記 野見山朱鳥の句

野見山朱鳥は、病と闘いながらも、俳句を通して独自の境地を切り開いた俳人でした。その作品は、今も多くの人々に読み継がれています。

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