野辺山宇宙電波観測所

野辺山宇宙電波観測所（のべやまうちゅうでんぱかんそくじょ）は、長野県南佐久郡南牧村にある国立天文台の電波天文台です。正式名称は自然科学研究機構国立天文台野辺山宇宙電波観測所、英語略称はNRO (Nobeyama Radio Observatory) です。かつては太陽電波観測を担当する野辺山太陽電波観測所（NSRO）が併設されていましたが、2015年3月に閉鎖され、一部の観測機器は宇宙電波観測所に移管されました。これらを総合して「野辺山電波観測所」や「野辺山地区」とも呼ばれ、地元では「野辺山電波天文台」の愛称で親しまれています。

歴史

観測所は、東京大学附属東京天文台（現在の国立天文台）天体電波研究部の観測施設として設立されました。開設当初から全国の大学が共同で利用する観測所として運営され、多くの電波天文学者を輩出しました。また、水沢VLBI観測所によるVERA計画、宇宙科学研究所による宇宙空間VLBI計画VSOP（電波天文衛星「はるか」）、アルマ望遠鏡計画など、数々の重要なプロジェクトがこの地から生まれました。

年表

1967年10月：天文研究連各委員会で、45m電波望遠鏡を中心とする観測所計画がまとまる。
1969年4月：6mミリ波電波望遠鏡が稼働開始（現・国立天文台三鷹キャンパス内）。
1969年5月：起工式。
1969年10月：野辺山太陽電波観測所が開所。
1970年4月：160MHz干渉計が稼働。
1971年4月：17GHz干渉計が稼働。
1977年4月：用地取得完了。
1977年9月：70-600MHz動スペクトル計が稼働。
1978年1月：17GHz強度偏波計が稼働。
1978年6月：17GHz干渉計を大幅に改良。
1980年4月：45mミリ波電波望遠鏡の建設開始。
1981年10月：45mミリ波電波望遠鏡の試験観測開始。
1982年3月：野辺山宇宙電波観測所が開所。
1982年4月：45mミリ波電波望遠鏡が稼働。
1982年10月：野辺山ミリ波干渉計（NMA）が稼働。
1986年12月：70-600MHz動スペクトル計を改良し、観測帯域が70-1000MHzに拡大。
1989年4月：160MHz干渉計の観測を終了。
1990年4月：電波ヘリオグラフの建設開始。
1992年4月：電波ヘリオグラフが稼働。
1992年7月：17GHz干渉計の観測を終了。
1994年8月：70-1000MHz動スペクトル計の観測を終了。
1997年2月：VSOP衛星「はるか」の打ち上げ成功。
2015年3月：太陽電波観測所閉所。強度偏波計は宇宙電波観測所に、電波ヘリオグラフはICCONに移管。
2019年6月：運営費不足のため、本館閉鎖、遠隔操作導入、宿泊費補助廃止、観測支援体制の縮小。
2020年3月：電波ヘリオグラフの観測を終了。
2022年3月：45mミリ波電波望遠鏡の共同利用観測を終了、有料観測に移行。

設置理由

野辺山が選ばれた理由は、周囲を山に囲まれて電波ノイズが少ないこと、小海線を利用したアクセスが良いこと、そして信州大学の実験農場などがあり、大学からの協力を得やすかったことなどが挙げられます。

主な施設

駐車場（無料）
守衛所（団体見学受付、パンフレット配布）
本館
計算機室・開発室・事務室
干渉計観測棟
NMA観測モニター室、NMA相関器室
45m電波望遠鏡
下部機械室
受信器室
45m望遠鏡観測棟
45m電波望遠鏡観測モニター室、見学室
太陽電波観測所棟
計算機室・事務室
偏波観測室
旧太陽電波観測所棟（資料室、機械置場など）

現用の観測装置

45mミリ波電波望遠鏡

1981年に完成した口径45mの電波望遠鏡です。ミリ波観測用としては当時世界最大級でした。1996年には25素子受信機BEARSが搭載され、高速マッピングが可能になりました。近年では、On-The-Fly（OTF）技術により、マッピング速度と精度が大幅に向上しました。新星間分子の発見や原始星周囲のガス円盤の研究、ブラックホールの証拠発見など、多くの重要な成果を上げています。2017年にはIEEEマイルストーンに認定されました。

運営交付金の減少や施設の老朽化に伴い、2022年3月末で無償共同利用を終了し、6月からは時間課金制での利用となりました。年間3,000時間が提供され、国内研究機関は1時間あたり1万円、海外研究機関は1時間あたり3万円で利用できます。また、学生向けには年間100時間程度の無償利用時間が提供されます。

技術仕様

有効口径：45m
光学系：カセグレイン式
鏡面材質：アルミパネル+CFRPコート
鏡面精度：平均0.01mm/45m（補償装置稼働時）、平均0.1mm/45m（補償装置非稼働時）
観測波長：10GHz 〜 230GHz

野辺山強度偏波計

野辺山強度偏波計（Nobeyama Radio Polarimeters、NoRP）は、複数の周波数で太陽全体の電波強度と偏波を測定する電波望遠鏡です。2022年時点で、1、2、3.75、9.4、17、35、80 GHzの7つの周波数帯で観測を行っています。太陽フレア発生時の電波バースト観測を通じて、爆発メカニズムの解明を目指しています。2015年3月の太陽電波観測所閉鎖後、宇宙電波観測所に運用が移管されました。

航空機、携帯電話基地局などからの混信の影響を受けやすいため、バンドパスフィルタの追加や観測周波数の変更などで対応しています。

技術仕様

制御：全自動式
光学系：カセグレイン式
追尾精度：0.01秒/180度

運用終了した観測装置

野辺山ミリ波干渉計

野辺山ミリ波干渉計（Nobeyama Millimeter Array、NMA）は、口径10mのアンテナ6台を使用して、最大口径600mの電波望遠鏡に相当する高解像度観測を行う開口合成型電波望遠鏡です。星形成領域や星間分子雲、近傍系外銀河などの観測研究に貢献しました。2007年3月に共同利用観測を停止し、2010年3月には科学観測運用を終了しました。

技術仕様

有効口径：10m / 最大合成口径 600m
光学系：カセグレイン式
観測波長：85GHz 〜 230GHz

野辺山電波ヘリオグラフ

野辺山電波ヘリオグラフ（Nobeyama Radioheliograph、NoRH）は、太陽観測専用の電波望遠鏡です。1990年から1992年にかけて建設され、直径80cmのパラボラアンテナ84台をT字型に配置し、太陽面の電波分布を高解像度かつ高時間分解能で撮影することができました。太陽フレアなどの現象の詳細な観測に貢献しました。2015年にICCONに移管されましたが、2020年3月に全ての観測運用を終了しました。

技術仕様

制御：全自動式
光学系：カセグレイン式
観測周波数：17 GHz、34 GHz

研究活動

天文学研究・教育: 電波望遠鏡の共同利用を通じて、国内外の天文学者が観測研究を実施しています。学部生や大学院生向けの観測実習も行われています。
ハードウェア開発: ミリ波干渉計の観測にスーパーコンピュータを活用したり、太陽電波望遠鏡の画像処理に専用スーパーコンピュータを導入するなど、計算機資源の活用も特徴です。また、高感度受信機の開発なども行っています。

業務解説

観測及びデータ利用: 45mミリ波電波望遠鏡は公募による共同利用です。
開発業務: 多様な観測ニーズに対応するため、受信機装置の精度向上や高分解能デジタル分光計の開発などを行っています。

所内注意事項

宇宙からの微弱な電波を捉えるため、観測所内では通信機器の使用が制限されています。

公開情報

年末年始を除いて自由見学が可能です。毎年8月20日頃には「特別公開」イベントが開催されます。

所在地

長野県南佐久郡南牧村野辺山462-2

交通アクセス: JR小海線野辺山駅から徒歩20分。

外部リンク

国立天文台
* 国立天文台野辺山

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