金原省吾

金原省吾：美学と美術史、歌の世界を歩んだ碩学

金原省吾（きんばら せいご）は、1888年（明治21年）に長野県茅野市に生まれ、1958年（昭和33年）に没した美学者、美術史学者、そして歌人です。旧姓は河西。その生涯は、美術、美学、そして文学という多岐にわたる分野での探求と創造に彩られています。

生い立ちと教育

長野県諏訪郡湖東村（現在の茅野市湖東区）の河西家に生まれた金原省吾は、後に北安曇郡大町の金原家の養子となります。1910年に長野師範学校を卒業後、小学校の教員を務めますが、その後上京し、正則英語学校を経て早稲田大学文学部哲学科に進学。1915年に同大学を卒業し、さらに研究科に進んで東洋美学と東洋美術史を深く研究しました。この間、金原は単に学問を追求するだけでなく、後にその研究活動を支える重要な基盤を築いたと言えるでしょう。

教育者としての歩み

1921年、金原省吾は日本美術学校の教授に就任します。その後、1929年からは帝国美術学校（現在の武蔵野美術大学）で教鞭を執り、多くの学生を指導しました。しかし、1935年には、校長と学生の対立から同盟休校事件が発生、これを受けて帝国美術学校から多摩帝国美術学校（現在の多摩美術大学）が分離独立するという激動も経験しました。また、満州国の新京に開設された建国大学では、芸術論の講師を務めるなど、その活動は多岐にわたりました。戦後、1949年には新潟大学教授に就任。1956年には、「絵画における線の研究」で早稲田大学から文学博士号を授与されました。

研究者としての業績

金原省吾の研究は、東洋美術、特に中国美術史や美学に関するものが中心です。『支那上代画論研究』や『東洋画概論』など、多くの著書を通じて、その深い知識と洞察力を示しました。また、『絵画における線の研究』のように、絵画の根源的な要素に着目した研究も行っています。これらの研究は、美術史研究だけでなく、美術教育の分野においても重要な貢献となっています。金原は、単に過去の美術を研究するだけでなく、それを現代の美術教育や文化に活かすことを目指していたと考えられます。

歌人としての側面

金原省吾は、歌人としても活動しました。島木赤彦に師事し、アララギ派の歌人として名を連ねています。彼の歌は、その美意識の高さと、独自の感性が表現されているといえるでしょう。

金原省吾の遺産

金原省吾の蔵書は、「金原文庫」として武蔵野美術大学図書館に所蔵されており、その研究の足跡を今に伝えています。2019年には、「武蔵野美術大学90周年記念・帝国美術学校の誕生―金原省吾とその同志たち」という展覧会が開催され、彼の業績が改めて評価される機会となりました。

金原省吾は、美学、美術史、そして歌という複数の分野で傑出した才能を発揮しました。彼の残した業績は、今日の美術研究や教育に大きな影響を与え続けています。彼の知的好奇心と探求心は、後世に多くの示唆を与え、その多面的な才能は、芸術を愛するすべての人々にとって大きなインスピレーションとなるでしょう。

主な著書

『支那上代画論研究』岩波書店 1924
『東洋画概論』古今書院 1924
『絵画に於ける線の研究』古今書院 1927
『東洋美学』古今書院 1932
『支那絵画史』古今書院 1938
『東洋美術論』講談社 1942
『美の構造』青磁社 1942
『日本芸術論』旺文社 1943
* 『山草集 歌集』古今書院 1959

これらの著書は、彼の幅広い知識と深い洞察力を示すものであり、美術史研究や美学研究における重要な文献として、今日でも参照されています。

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