金富子

金富子（キム・プジャ）

金富子氏は、1958年青森県生まれの歴史学者であり、東京外国語大学名誉教授です。在日朝鮮人二世として、日本の植民地支配とジェンダーの問題を長年にわたり研究し、社会に深く貢献してきました。

専門分野と研究

金氏の専門は、ジェンダー史、特に植民地期朝鮮の教育史です。植民地支配下の朝鮮における教育とジェンダーの関係に着目し、民族、階級との関連を分析しています。また、植民地公娼制や戦時性暴力、そして現代日本・韓国における性暴力・性売買の問題にも積極的に取り組んでいます。

博士論文である「植民地期朝鮮における普通学校への就学・不就学とジェンダー：民族・階級との関連を中心に」は、植民地時代の朝鮮における教育機会の不平等と、それがジェンダー、民族、階級によってどのように影響を受けていたかを明らかにした重要な研究です。

社会活動

金氏は研究活動にとどまらず、社会運動にも積極的に参加しています。いわゆる従軍慰安婦問題に取り組み、VAWW-NETジャパンの運営委員として活動し、女性国際戦犯法廷でも中心的な役割を担いました。また、「戦争と女性の人権博物館」の日本建設委員会にも参加し、慰安婦問題の真相究明と名誉回復に尽力しています。

歴史教科書問題にも積極的に関与し、「新しい歴史教科書をつくる会」の動きに対し、加納実紀代、鈴木裕子、川田文子らと共に『「新しい歴史教科書をつくる会」に抗議する女たちの緊急アピール』を発表しました。また、安倍晋三首相（当時）の真珠湾訪問に対し、歴史認識と中国・朝鮮の戦争犠牲者に対する慰霊の意思を問いただす公開質問状を発表するなど、歴史修正主義の動きに警鐘を鳴らしています。

人物と主張

金氏は、朴裕河氏の著書『和解のために』や、和田春樹氏、上野千鶴子氏など、その著書を評価する人々を批判しています。彼女らの主張は被害者証言や性奴隷状態を軽視し、国家中心・男性中心であると指摘し、植民地主義への批判が欠落していると主張しています。また、『帝国の慰安婦』を支持する日本のリベラル知識人こそが、深刻な人道的問題を民族主義問題に矮小化していると批判しています。

慰安婦問題に関しては、秦郁彦氏を「歴史修正主義のマエストロ」、J・マーク・ラムザイヤー氏の論文を「学会のヘイトスピーチ」と強く批判するなど、歴史修正主義的な言説に対して厳しく対峙しています。

著書

金氏は、数多くの著書を通じて、植民地支配とジェンダーの問題について深く掘り下げています。

『植民地期朝鮮の教育とジェンダー：就学・不就学をめぐる権力関係』（世織書房、2005年）
『継続する植民地主義とジェンダー：「国民」概念・女性の身体・記憶と責任』（世織書房、2011年）
* 『植民地遊廓：日本の軍隊と朝鮮半島』（吉川弘文館、2018年、金栄との共著）

これらの著作は、植民地支配下の朝鮮における教育、ジェンダー、セクシュアリティの問題を深く理解するための重要な資料となっています。

金富子氏は、研究者としてだけでなく、社会運動家としても、植民地支配とジェンダーの問題に取り組み、社会に大きな影響を与え続けています。

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