金沢百枝

金沢百枝：中世美術史研究の第一人者

金沢百枝氏は、日本を代表する中世美術史家の一人です。1968年東京都生まれ。幼少期をインドとイギリスで過ごし、多様な文化に触れて育ちました。東京大学理学部生物学科卒業という異色の経歴を持ち、植物学を専攻した後、美術史へと転向。その学究的な姿勢は、専門分野の転換にも見られます。

東京大学大学院理学系研究科博士課程において「濡れによる光合成阻害とそのメカニズムに関する生理生態学的研究」で理学博士号を取得した後、ロンドン大学付属コートールド美術研究所への留学を経て、東京大学大学院総合文化研究科博士課程を満期退学。その後、「ジローナの〈天地創造の刺繍布〉研究 ロマネスクの宇宙図と創造主礼讃」で学術博士号を取得しました。この研究は、彼女の中世美術、特にロマネスク美術への深い関心の始まりを示しています。

学術研究において、金沢氏は顕著な成果を上げています。2011年には『ロマネスクの宇宙』で島田謹二記念学藝賞を、2016年には『ロマネスク美術革命』でサントリー学芸賞（芸術・文学部門）を受賞するなど、その研究は高い評価を受けています。これらの受賞は、彼女の研究の独創性と学術的貢献を明確に示しています。

金沢氏の研究は、ロマネスク美術という特定の分野に留まりません。中世美術における多様なテーマを網羅し、独自の視点から考察を試みています。例えば、教会建築における光と影の表現、天使像の変化、中世の人々の世界観など、多岐にわたるテーマを扱っています。さらに、彼女はイタリアの古寺を巡る旅行記を小澤実氏との共著で発表するなど、自身の研究を一般向けに分かりやすく伝える努力も惜しみません。

その研究活動は、単なる学術論文の執筆にとどまりません。工芸青花での寄稿や講演活動、様々なメディアへの寄稿など、幅広い活動を通して、中世美術の魅力を広く一般に伝えています。また、海外の研究者との交流も盛んであり、国際的な視野も持ち合わせています。

彼女の著作は、専門家だけでなく一般の人々にも広く読まれています。専門的な知識を分かりやすく解説する能力は高く評価され、多くの読者を引きつけています。例えば、『ロマネスクの宇宙』では、ジローナの「天地創造の刺繍布」を詳細に分析し、ロマネスク美術の世界観を解き明かしています。『ロマネスク美術革命』では、ロマネスク美術における革新的な側面を多角的に論じています。これらの著作は、中世美術への理解を深める上で極めて貴重な資料となっています。

現在、金沢百枝氏は多摩美術大学美術学部芸術学科教授として後進の育成にも力を注いでいます。彼女の豊富な知識と経験は、多くの学生たちに大きな影響を与えていることでしょう。今後の研究活動からも目が離せません。

主な著作・論文:

『ロマネスクの宇宙―ジローナの『天地創造の刺繍布』を読む』（東京大学出版会）
『ロマネスク美術革命』（新潮選書）
『イタリア古寺巡礼』（小澤実氏との共著、全3巻）
多くの論文、コラム、翻訳作品

金沢百枝氏の研究は、中世美術史、ひいては美術史全体に多大な貢献をしていると言えるでしょう。その研究成果は、多くの研究者や愛好家にとって重要な指針となり、今後の研究発展にも大きく貢献するものと期待されます。

もう一度検索