金聖嘆

金聖嘆（きんせいたん）

金聖嘆（1608年 - 1661年）は、明末清初の時代に活躍した文芸評論家です。彼は、これまで低い評価を受けていた俗文学に新たな光を当て、古典と同等の価値を見出したことで、文学史に名を残しました。

生涯

金聖嘆は、蘇州府呉県（現在の江蘇省蘇州市）に生まれました。彼の本名は張采または張若采であったとも言われていますが、定かではありません。幼少期は貧しい家庭で育ち、その頃の逸話が数多く残されています。

1622年に童試に合格。その後結婚し、1632年には息子である金雍が誕生しています。1641年には、彼の代表作の一つである『水滸伝』の評釈を出版しました。

1644年に明が滅亡すると、金聖嘆は清に仕えることなく、仏教の研究に没頭するようになります。1649年には、『碧巌録』の公案を基にした『聖人千案』を著しました。

1656年には『西廂記』の評釈を出版。1660年には、唐詩595首の評釈である『唐才子詩』を完成させました。

1661年、呉県に赴任した県令の任維初が不正な税の取り立てを行ったため、民衆の不満が高まりました。順治帝の崩御後に行われた追悼集会が、任維初を批判する運動へと発展（哭廟抗糧）。政府はこれを弾圧し、金聖嘆は首謀者の一人として逮捕され、江寧で処刑されました。

業績

金聖嘆は、『荘子』、屈原の『離騒』、司馬遷の『史記』、杜甫の詩、『水滸伝』、王実甫の『西廂記』を「六才子書」と呼び、特に重視しました。中でも、『水滸伝』と『西廂記』の評釈本は、彼の思想が色濃く反映された作品として知られています。

『水滸伝』においては、物語の後半部分を大胆にカットし、梁山泊に108人の好漢が集結するまでの70回本に改変しました。この改変版は、後世に大きな影響を与え、本来の100回本や120回本が忘れ去られるほどでした。『西廂記』についても、後世の追加部分である第5本を削除しています。

金聖嘆の著書の特徴として、各書物の冒頭に「読法」と呼ばれる総論を置き、各節にも総論を付し、さらに文章の合間に詳細な評語を挿入する形式が挙げられます。『水滸伝』の「読法」においては、登場人物を詳細に分類し、宋江を最下位に位置づけるなど、独自の人物評価を展開しました。

金聖嘆の過激な言動は、多くの反感を買いましたが、同時に熱狂的な支持者も生み出しました。彼の原稿を求める書店が殺到したという逸話も残っています。

金聖嘆による俗文学の再評価は、李卓吾ら陽明学左派の思想と共通する点が見られます。李卓吾は「童心」の重要性を唱え、『水滸伝』などを高く評価しました。また、袁宏道は『金瓶梅』を称賛し、李漁は『三国志演義』、『水滸伝』、『西遊記』、『金瓶梅』を「四大奇書」として出版するなど、金聖嘆以前にも俗文学の価値を認める動きがありました。

金聖嘆の業績は、文学の多様性を認め、新たな視点を導入することで、文学史に大きな足跡を残したと言えるでしょう。

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