屈原

屈原（くつ げん）

屈原は、中国戦国時代の楚の政治家であり、詩人です。紀元前343年頃に生まれ、紀元前278年頃に亡くなりました。楚の王族の出身で、博識で文才にも長けていたため、懐王に重用され、賓客をもてなす役職である左徒を務めました。

生涯

当時の楚は、西の強国である秦との外交に苦慮していました。国内では、秦と同盟して安定を図ろうとする親秦派と、東の斉と連携して秦に対抗しようとする親斉派が対立していました。屈原は親斉派のリーダーとして、秦の危険性を訴えましたが、受け入れられませんでした。

秦の策略家である張儀の罠にはまり、懐王は秦に捕らえられてしまいます。この失態により、屈原はさらに疎まれ、地方へと左遷されてしまいます。その後、楚の首都が秦によって陥落すると、屈原は国の将来に絶望し、汨羅江（べきらこう）に身を投げて自殺しました。

詩人としての屈原

屈原は、中国で初めて作者名を伴って記録された詩人として知られています。彼の作品は、楚の詩を集めた『楚辞』に収められており、中でも『離騒』は彼の代表作として有名です。

屈原の詩は、愛国心に満ち溢れており、その悲劇的な生涯と相まって、後世の多くの人々に感動を与えてきました。

屈原に関する様々な説

屈原の人物像については、実在を疑う説や、その生涯について諸説存在します。

実在について: 屈原の伝記や、『楚辞』を屈原が作ったとする伝承には疑問が提出されています。司馬遷の『史記』における屈原の記述は、後世の儒教的な解釈に基づいて作られた可能性があるという指摘もあります。
作品の作者: 『楚辞』に収められた詩のうち、どれが屈原の作であるかについても、諸説あります。『離騒』と『九章』中の「哀郢」が初期に書かれたと考えられていますが、作者は別人であるという説も存在します。

これらの説は、屈原が文学的なヒーローとして後世に語り継がれてきたことを示唆しており、彼の人物像や作品に対する関心を高める要因となっています。

屈原と端午の節句

屈原が亡くなったとされる5月5日は、端午の節句として知られています。この日には、屈原の霊を慰めるために、ちまきを川に投げ入れたり、ドラゴンボート（龍船）を漕ぎ競う行事が行われます。

ちまき: 楝樹の葉に米の飯を包み、五色の糸で縛って川に投げ入れる風習は、屈原を偲んで行われるようになったとされています。
ドラゴンボート: 屈原が入水した際に、人々が競って船を出して救出しようとしたという故事が、ドラゴンボートの起源であると伝えられています。

参考文献

岡村繁「楚辭と屈原 ―ヒーローと作者の分離について―」『日本中國學會報』第18号、1966年、86-101頁。
小南一郎『楚辞とその注釈者たち』朋友書店、2003年。ISBN 4892810932。
佐藤一郎『中国文学史』慶應義塾大学出版会株式会社、1971年。
矢田尚子『楚辞「離騒」を読む―悲劇の忠臣・屈原の人物像をめぐって―』東北大学出版会、2018年。ISBN 9784861633003。

関連項目

楚辞
端午
漁父辞
ドラゴンボート（龍船）
横山大観 - 代表作に「屈原」(1898年)。
鼻たれ小僧 - 「屈原」は、「洟垂小僧」（経験の浅い者）をさす隠語。
* ちまき

もう一度検索