金鍔次兵衛

金鍔次兵衛（きんつば じひょうえ）は、慶長5年（1600年）に生まれ、寛永14年9月20日（1637年11月6日）に没した17世紀日本のカトリック司祭です。彼は聖アウグスチノ修道会に所属し、カトリック教会によって福者ペトロ岐部とその仲間187殉教者の一人として認められています。

彼は肥前国大村（現在の長崎県大村市周辺）で、敬虔なキリシタンの家庭に生まれました。父はレオ小右衛門、母はクララおきやといい、後に彼ら自身も信仰のために命を捧げる殉教者となります。次兵衛の洗礼名は「トマス」でしたが、本名の正確な記録は残されていません。「金鍔」という呼び名は、彼が後に長崎奉行所で役人のように振る舞っていた際に身に着けていた刀の鐔（つば）が金色であったことに由来すると伝えられています。

幼い頃から司祭となることを強く願い、6歳の頃には有馬にあったキリシタン時代の神学校（セミナリヨ）で神学の道を歩み始めました。しかし、徳川幕府によるキリシタン禁教令が次第に厳しさを増し、彼は国外への追放を余儀なくされます。マカオへ渡った彼は、そこで勉学を継続しましたが、1620年にマカオのセミナリヨが閉鎖されたため、日本への帰国を決意します。

その後、1622年にはフィリピンのマニラに渡り、聖アウグスチノ修道会に入会しました。そこで修道服を受け、修道名を「トマス・サン・アウグスティノ」としました。1627年には司祭に叙階されますが、故郷日本での宣教を強く望んだにもかかわらず、迫害が激化する日本への帰国は修道会の長上によってなかなか許されませんでした。

しかし、彼の熱意は衰えず、ついに1631年、念願叶って日本へ帰国を果たしました。帰国後は、危険を顧みることなく同胞への宣教活動を展開します。彼は巧みに身分を隠し、日中は長崎奉行所に馬丁として潜り込みました。そこで役人の目を盗んで、牢に囚われた宣教師や信徒たちを密かに励まし、また幕府内の情報を集めました。夜になると、変装して潜伏している信徒の家を訪ね、司祭として秘跡を授け、彼らの信仰を支える司牧活動を行いました。

1634年、長崎奉行所にその正体が露見すると、彼はすぐさま姿をくらまし、長崎の山奥へと逃れました。厳しい追跡をかわしながらの潜伏生活を続け、その神出鬼没な活動ぶりは、幕府当局をして「魔術を使っているのではないか」と疑わせるほどでした。次第に彼は人々の間で伝説的な存在となり、彼が隠れたとされる洞窟や関連する地名が今も語り継がれています。

しかし、1636年に次兵衛はついに捕らえられてしまいます。捕縛後、彼は棄教を強要され、激しい拷問を受けましたが、その信仰を捨てることは決してありませんでした。1637年8月21日には最初の逆さ吊りの刑に処されましたが、2日後の8月23日、入港したポルトガル船の船員に関する尋問のため、一時的に刑が中断されました。しかし、彼は仲間に関する情報を一切明かさなかったため、同年11月6日、長崎の西坂の丘で再び逆さ吊りの刑に処され、最後まで信仰を証しして壮絶な殉教を遂げました。

没後、トマス金鍔次兵衛は殉教者として聖アウグスチノ修道会によって調査が進められましたが、日本の鎖国によりその作業は中断されました。時は流れ、1981年（昭和56年）、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の来日を契機に、彼の調査を含む日本の殉教者に関する調査が再開されます。そして2008年（平成20年）11月24日、ローマ教皇ベネディクト16世の裁可のもと、長崎市で行われた列福式において、ペトロ岐部神父をはじめとする187名の殉教者と共に福者の位にあげられました。

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