金龍 (山形県)

株式会社金龍

山形県酒田市に本社を置く株式会社金龍は、長年にわたり日本の伝統的な蒸留酒である焼酎の製造を主力事業としてきた酒造メーカーです。特に地域に根ざした存在として知られ、代表的な焼酎には、爽やかな味わいの「爽」や地域限定出荷の「爽金龍」などがあります。同社は近年、市場環境の変化に対応するため、新たな経営の柱としてウイスキー事業に参入。2018年にウイスキー製造免許を取得し、ジャパニーズ・ウイスキーの製造を開始するなど、事業の多角化を進めています。

会社の設立と歴史

株式会社金龍の歴史は、1950年（昭和25年）4月に酒田市船場町で設立された「山形県醗酵工業株式会社」から始まります。これは、酒田・飽海地区の9つの酒蔵が共同で出資し、酒造りの原料アルコールを供給すると同時に、焼酎の製造販売を行う目的で設立されたものです。設立から16年後の1966年（昭和41年）12月には、現在の「株式会社金龍」へと社名を変更しました。その後、1978年（昭和53年）には同社の看板商品となる焼酎「爽」の販売を開始。事業の拡大に伴い、1993年（平成5年）には本社および工場を現在の酒田市黒森に移転しました。ちなみに、過去に宮城県の一ノ蔵が運営していた「金龍蔵」という酒造施設は、株式会社金龍が商標を所有していた関係で、2021年秋より「祥雲金龍」に名称が変更されています。

ウイスキー事業への本格参入

焼酎製造で培った経験を活かし、株式会社金龍が新たな事業の核として取り組んでいるのがウイスキー製造です。2018年（平成30年）11月、同社は東北地方で3番目となるウイスキー蒸溜所「遊佐蒸溜所」を新設しました。この蒸溜所は、酒田市の隣に位置する遊佐町、特に鳥海山の豊かな伏流水に恵まれた吉出地区に建てられています。敷地面積約4,550平方メートル、蒸溜所建屋は約620平方メートルと、大規模生産向けではない造りですが、これは少量生産ながらも徹底的に品質を追求するという同社のこだわりを示しています。

遊佐蒸溜所では、高品質なシングルモルトウイスキー製造のため、設備にもこだわっています。蒸留器であるポットスチルは、スコットランドの老舗メーカー、フォーサイス社に特注したものが導入されました。また、5つの発酵槽には、香り高いカナダ産のダグラスファー（ベイマツ）材を使用。製造工程や熟成方法についても、伝統的なスコットランドの方式を参考に、シングルモルトウイスキーのみに特化した製造を行っています。

事業多角化の背景と今後の展望

株式会社金龍がウイスキー事業に乗り出した背景には、国内の焼酎市場を取り巻く厳しい環境がありました。特に、県内市場への依存度が高く（売上の約95%）、人口減少に伴う市場縮小への懸念が無視できなくなっていたのです。こうした状況下で、焼酎に代わる新たな経営の柱が必要と考えた同社は、近年拡大傾向にあるウイスキー市場に着目しました。特に、ハイボールブームやプレミアムウイスキー人気の高まりによる国内需要の増加、そして海外におけるジャパニーズウイスキーへの高い評価と世界的供給不足といった状況は、新たな事業機会として大きな可能性を示していました。

これらの市場動向を踏まえ、同社はウイスキー事業を全国、さらには海外市場への展開を見据えた戦略的な一歩と位置づけました。遊佐蒸溜所は2018年11月から稼働を開始し、2022年2月には最初の製品である「ファーストエディション2022」を発売。約8,500本が製造され、国内外で大きな注目を集めました。特に山形県内には約1,500本が出荷され、地元の期待の高さが伺えます。株式会社金龍は、高品質なシングルモルトウイスキー製造を通じて、国内外でのブランド確立を目指し、焼酎事業と並ぶ新たな成長軌道を切り拓こうとしています。

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