釜本文男

釜本 文男

釜本 文男（かまもと ふみお）は、日本のハンマー投選手として活躍し、引退後は指導者としても多大な足跡を残した人物です。1918年11月4日に兵庫県で生を受け、2011年2月11日に92歳でその生涯を閉じました。

現役時代は、ハンマー投げの選手として国際舞台でも実績を残しました。特に、1951年にフィリピンの首都マニラで開催された第1回アジア競技大会では、46メートル65センチメートルの記録を樹立し、この種目で見事に金メダルを獲得しました。これは、当時の日本陸上界における重要な成果の一つと言えます。その後、1956年に開催されたメルボルンオリンピックにも日本代表選手として出場しましたが、残念ながら予選を突破することはできませんでした。

選手生活を終えた後は、指導者としての道を歩み始めます。1964年に東京で開催された夏季オリンピックでは、日本選手団の陸上競技コーチを務め、選手たちの指導にあたりました。

特に彼の指導者としての功績が際立つのは、日本大学陸上競技部の監督時代です。日大の監督として、彼は多岐にわたる種目で選手を育成し、チームを強化しました。チームとしては、正月の風物詩である東京箱根間往復大学駅伝競走で優勝を果たすなど、長距離分野でも輝かしい成績を残しました。しかし、彼の専門はあくまで投擲種目であり、ハンマー投げにおいては、後の日本記録保持者となる菅原武男氏や、長く日本陸上界を牽引した室伏重信氏といった、日本を代表する選手たちを育て上げました。また、ロードやトラック種目においても、鈴木従道氏、宇佐美彰朗氏などの著名な選手を指導し、幅広い分野で才能を開花させました。

興味深いことに、釜本氏自身は駅伝に対して必ずしも特別な思い入れは持っていなかったと伝えられています。むしろ、陸上競技の基礎はトラックとフィールドにあるという考えを強く持っており、駅伝に偏った指導には慎重な姿勢を見せていました。彼は、箱根駅伝での活躍を目指していた山梨学院大学監督の上田誠仁氏に対しても、「上田君、関東インカレの“陸上競技対校選手権”という名称の通り、トラック＆フィールドのチームとして今後は育成してくださいよ。陸上競技部が原点であり、基本ですからね」と語りかけ、トラック＆フィールド種目の育成の重要性を強調したというエピソードが残されています。これは、陸上競技全体のバランスの取れた発展を目指す彼の指導哲学をよく表しています。

日本大学の監督を退任した後も、彼は日本陸上界に貢献し続けました。関東学生陸上競技連盟の会長に就任し、学生陸上競技の振興と発展に力を尽くしました。競技者、指導者、そして運営者として、日本の陸上競技界において非常に多角的な役割を果たした人物と言えるでしょう。

2011年2月11日、彼は老衰のため、住み慣れた世田谷区の自宅で静かに息を引き取りました。享年92歳でした。釜本文男氏が選手として、また指導者として日本の陸上競技に残した功績は、今も多くの人々に記憶されています。特に、彼が育成した選手たちは、その後の日本陸上界の発展に大きく寄与しました。彼の名前は、日本の陸上競技史において重要な一ページを飾っています。

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