鈴木彪平

鈴木 彪平（すずき ひょうへい）

生没年 1914年1月28日 - 1980年12月23日

日本の教育者であり、社会福祉活動家。特に視覚障害者の教育と自立支援、そして盲導犬の育成と普及に生涯を捧げた人物であり、栃木盲導犬センター（現在の東日本盲導犬協会）の創立者として知られています。

東京府に生まれた鈴木彪平氏は、7歳の時に父を亡くし、若い頃から苦学を強いられました。1936年に明治大学政治経済学部を卒業後、大手電機メーカーである東芝に入社しますが、翌年、社会人バスケットボールの試合中の不慮の事故により視力を失います。

突然の失明は彼を深い絶望の淵に突き落とし、一時は自死をも考えたと後に語っています。しかし、母親の献身的な支えによって精神的に立ち直り、さらにいとこから勧められたキリスト教との出会いが人生の大きな転機となります。新約聖書ヨハネ伝にある、生まれながらの盲人に関する記述「それが、本人が罪を犯したのではなく、両親が罪を犯したのでもない。ただ神のみわざが彼の上に現われるためである」という言葉に強い感銘を受け、新たな道を歩む決意を固めます。

1940年6月、視覚障害者の教育に携わるため、東京同愛盲学校（現・ヘレン・ケラー学院）の教諭となります。同年12月のクリスマスには目白教会で洗礼を受け、信仰の道に入りました。1941年には埼玉県立盲学校に移り、英語と社会科を担当。自宅では生徒たちと共に聖書研究会を開くなど、教育と伝道の両面に力を注ぎました。1945年の終戦直前には家族と共に北海道へ疎開しました。

戦後の1949年、栃木県立盲学校の教諭に就任し、以後1976年に退職するまでの長きにわたり、同校で多くの視覚障害を持つ生徒たちの指導にあたりました。教育への熱意から、1954年にはフルブライト・プログラムを利用して渡米。ニューヨークのハンター大学やカリフォルニア大学バークレー校で、視覚障害者に対する先進的な教育方法や福祉について深く学びました。

米国滞在中、1967年にロサンゼルスにある盲導犬センター「Eye Dog Foundation」を訪れた際、ジャーマン・シェパード・ドッグの盲導犬「アルマ」と出会い、その能力と視覚障害者に寄り添う姿に深く感動しました。この経験が、日本国内での盲導犬育成という新たな目標へと繋がります。

帰国後、盲導犬の必要性を強く感じた鈴木氏は、その普及と育成に情熱を傾け、1974年に「財団法人・栃木盲導犬センター」を設立しました。自ら理事として中心となり、盲導犬の育成事業の立ち上げと運営に尽力し、日本の盲導犬史におけるパイオニアの一人となりました。

教育者、そして伝道者としての活動も続けました。日本盲人キリスト教伝道協議会（盲伝）では、盲教育者部の部長を18年間務めた後、第4代議長に選ばれています。また、「日本盲人の父」と称される好本督氏の提唱するアジアの視覚障害者との国際交流の考えに賛同し、韓国、台湾、フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイ、香港など、アジア各国との交流を積極的に推進しました。

宇都宮市に居住してからは、日本基督教団四條町教会の中心的な存在として活動し、教会付属の清愛幼稚園の理事も務め、幼児教育にも関わりました。1978年には、教え子たちと共にキリスト教伝道のための福祉施設「愛信ホーム」を設立。また、自宅で英語塾を開き、地域の教育にも貢献しました。

教育者としては、生徒一人ひとりの個性を尊重し、親身になって相談に応じました。卒業生の就職や、時には個人的な結婚の世話まで焼くなど、細やかな配慮を欠かしませんでした。特に視覚障害者の自立に繋がる理療科教育を重視し、彼の指導を受けた生徒の中から5名が大学に進学するという実績を残しています。

1980年12月、自身の多岐にわたる功績について読売新聞社からのインタビューを受けている最中、心筋梗塞により急逝しました。享年66歳。その死後、長年の福祉活動と貢献が讃えられ、読売新聞社から福祉賞が贈られました。鈴木彪平氏は、失明という大きな試練を乗り越え、教育、福祉、そして信仰の力によって、多くの人々に希望を与えた人物として記憶されています。

参考文献
『道ひとすじ-昭和を生きた盲人たち』 （あずさ書店、1993年）

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