鈴木雅 (看護師)

鈴木雅（すずき まさ）は、1857年（安政4年）12月26日に生まれ、1940年（昭和15年）6月11日に逝去した、日本の近代看護黎明期を支えた看護師の一人です。

旧姓は加藤といい、父は沼津出身で静岡県士族の加藤信盛、母はトヨ、妹にテル、弟に保太郎がいました。父・信盛は幕末の動乱期に鳥羽伏見の戦いをはじめ各地を転戦し、箱館戦争では五稜郭にも籠城して生き残った人物でした。

雅はまずフェリス女学校で学びました。その後、看護の道を志し、1886年（明治19年）に同期の大関和と共に、桜井女学校付属看護婦養成所の第1期生として入学します。この養成所には、当時日本に滞在していたアグネス・ヴェッチが赴任しており、彼女から直接、西洋式の看護学の指導を受けました。

養成所を卒業後、雅は帝国大学医科大学附属第一医院（現在の東京大学医学部附属病院）に勤め、内科病棟で看護婦取締役（現在の看護師長に相当）を務めるまでになります。病院での経験を通じて、社会が必要とする看護サービスの拡充と看護師の地位向上、育成の重要性を痛感したと考えられます。

やがて雅は、看護師たちが協力して社会に貢献するための組織を設立することを決意します。慈善看護婦会（後に東京看護婦会と改称）を創設し、この会を拠点として積極的な活動を展開しました。特に画期的だったのは、1891年（明治24年）に開始した看護派出事業です。これは、現在の訪問看護や派遣看護師の先駆けともいえる事業で、家庭や必要な場所に看護師を派遣する仕組みを作り上げました。

また、質の高い看護師を育成するため、「東京看護婦講習所」も設立し、看護教育にも尽力しました。これは、組織的な看護教育体制がまだ十分ではなかった時代において、看護技術の普及と専門性向上に貢献する重要な取り組みでした。

私生活では、西南戦争で大阪鎮台歩兵第9連隊大隊長を務めた鈴木良光歩兵大尉と結婚しました。しかし、夫の良光は後に仙台鎮台に配属されていた際に病に倒れ、少佐で亡くなります。これにより、雅は同期の大関和と同様に、一人で子どもを育てるシングルマザーとしての道を歩むことになりました。

鈴木雅の看護への情熱と先駆的な取り組みは、日本の看護界の発展に大きな足跡を残しました。その生涯と功績、そして困難に立ち向かう姿は、現代にも多くの示唆を与えています。特に、彼女の人生は、2026年度前期に放送予定のNHK連続テレビ小説『風、薫る』において、主要な人物のモデルとなることが発表されています。

鈴木雅は、看護教育の確立、看護サービスの提供形態の多様化など、多角的な視点から日本の看護の近代化に貢献した人物として記憶されるべき存在です。

もう一度検索