鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血について

鉄欠乏性貧血（Iron-deficiency anemia、略称IDA）は、体内にある鉄分の不足が原因で、ヘモグロビンの生成が妨げられることにより起きる貧血の一形態です。特に女性に多く見られるこの状態は、月経や消化管からの慢性的な出血によって鉄が失われることが一般的な原因とされています。これにより、体内の赤血球に含まれる血色素（ヘモグロビン）が減少し、様々な症状が現れます。

病態と原因

赤血球は血色素を含む細胞であり、鉄はヘモグロビンの重要な成分です。鉄が不足すると、赤血球は正常な機能を果たせず、平均的には赤血球の数自体は保たれるものの、1つ1つの赤血球に含まれるヘモグロビンの量が減少するため、全体として貧血が起こります。特に、月経などの出血によって女性は周期的に鉄を失うため、鉄欠乏性貧血が発生しやすくなります。

さらに、胃潰瘍や大腸がんなどの疾患が消化管出血を引き起こすことがあり、これも大きな要因です。若年層の女性や心身のストレスからの食事制限をしている場合も、鉄欠乏性貧血にかかるリスクが高まります。

隠れ貧血

鉄の貯蔵状態が低下しながらも症状が現れない場合は「隠れ貧血」と呼ばれます。この状態は、一時的な鉄不足ではなく、長期的な注意が必要な指標です。特に成長期の子どもや妊婦では、適切な鉄の摂取が求められます。

症状

鉄欠乏性貧血の主な症状には、疲労感や倦怠感、動悸、めまい、呼吸困難感などがあります。進行すると生活の質が低下し、起き上がることも困難になることがあります。また、特有の症状として「匙状爪」という指の爪が上向きに反る状態や、眼瞼結膜が蒼白になる現象なども見られます。

併発する病状

鉄欠乏性貧血を放置すると、プランマー・ヴィンソン症候群が併発することがあります。これは、舌炎、口角炎、嚥下困難を特徴とする病態で、粘膜組織の正常な代謝にも鉄が必要なため、鉄欠乏が影響します。異食症（非栄養物質の摂取異常）もこの状態に関連することがあります。

診断と検査

診断は血液検査を使って行われます。典型的な結果としては、ヘモグロビンやヘマトクリットの低下、赤血球の平均容積（MCV）や色素量（MCH）の低下が見られます。また、血清フェリチン（貯蔵鉄を示す指標）や血清鉄の不足、TIBC（総鉄結合能）の上昇も診断に役立ちます。

治療法

基礎疾患がある場合には、その治療が優先されますが、主な治療法として鉄剤の投与が挙げられます。経口投与が基本で、鉄剤には多くの種類があり、特にクエン酸第一鉄ナトリウムがよく使用されます。ただし、消化器系の副作用が出る場合もあるため、その際は適切な胃薬を併用することが重要です。錠剤が服用困難な場合は、点滴での投与が検討されることもあります。

予防と日常管理

鉄欠乏性貧血は特に女性に多いため、日常的な食生活において鉄分を意識的に摂取することが大切です。バランスの取れた食事と、必要に応じたサプリメントの活用が助けになります。鉄分を効果的に摂取するために、ビタミンCを同時に摂ることも推奨されます。貧血の兆候に気付いたら、早めに医師の診断・治療を受けることが大切です。

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