鋼鉄の歩み

『鋼鉄の歩み』

『鋼鉄の歩み』（こうてつのあゆみ、仏: Le Pas d'Acier）は、バレエ・リュスによって1927年に初演された2幕からなるバレエ作品であり、セルゲイ・プロコフィエフがそのために作曲した音楽（作品41）も指します。この作品は、当時のソビエト連邦の工業化を背景に、革命後の社会変革を描いた意欲的な作品として知られています。

成立の過程

1925年、プロコフィエフは自身の交響曲第2番がパリで不評だったことに自信を失っていました。その夏、バレエ・リュスの主宰者セルゲイ・ディアギレフは彼にバレエ音楽の作曲を依頼します。プロコフィエフは、当時バレエ・リュスで成功を収めていた「フランス6人組」のような作風はできないと一度は断りましたが、ディアギレフは彼自身のスタイルでソビエト連邦をテーマにした作品を作るように指示しました。これにより、プロコフィエフは新たな創作の道へと進むことになります。

台本は当初、イリヤ・エレンブルグに依頼される予定でしたが実現せず、最終的に舞台美術を担当するゲオルギー・ヤクロフとプロコフィエフが共同で作成することになりました。2人は、当時のソ連で進行していた工業の発展をテーマとし、ハンマーや斧を振るう労働者を登場させることで合意。ディアギレフもこのアイデアを快諾し、『鋼鉄の歩み』というタイトルが与えられました。

あらすじ

このバレエは2つの場面で構成されています。

第1場： 革命による帝政ロシアの崩壊が描かれます。没落した貴族たちの姿を通して、古い秩序の終わりを象徴的に表現しています。
第2場： 社会主義国家の建設がテーマです。労働者たちが力強く働く姿を通じて、新たな社会の到来を表現しています。

初演

1927年6月7日、パリのサラ・ベルナール劇場でバレエ・リュスの公演として初演を迎えました。ロジェ・デゾルミエールが指揮を執り、レオニード・マシーンが振付を担当しました。ディアギレフは、白系ロシア人による妨害を警戒していましたが、大きな騒動もなく、公演は大きな成功を収めました。

しかし、かつてバレエ・リュスの美術を担当していたアレクサンドル・ブノワは、第1場の没落した貴族のシーンに衝撃を受け、イーゴリ・ストラヴィンスキーは舞台上でハンマーを振るうダンサーに嫌悪感を示したといいます。これらの反応は、作品のテーマが当時の社会情勢に深く関わっていたことを示唆しています。

パリ公演の後、ロンドン公演も無事に終えました。ディアギレフは、反社会主義者に対する警戒心から、オーケストラピットでピストルを携帯して待機していたという逸話も残っています。

その後、1931年にはレオポルド・ストコフスキーの指揮により、ニューヨークのメトロポリタン劇場で上演されました。プロコフィエフは、資本主義の中心地で社会主義の赤い旗がはためく光景を見て、非常に爽快な気分になったと語っています。

組曲版

バレエ音楽の中から4曲が抜粋され、組曲（作品41bis）としても演奏されています。組曲版は以下の構成となっています。

1. 登場人物の紹介
2. 兵士と市民
3. 船員と働く女
4. 工場

組曲は1928年5月27日にモスクワで初演されました。プロコフィエフ自身は、バレエ音楽の単なる縮小版に不満を感じ、1931年春に第2曲と第4曲をバレエをもとに再編曲しました。

その他

同時期に機械化文明をテーマにした作品としては、アルテュール・オネゲルの『パシフィック231』（1923年）、アレクサンドル・モソロフの『鉄工場』（バレエ『鋼鉄』による、1926年）などがあります。これらの作品と共に、『鋼鉄の歩み』は、当時の社会と技術の進歩を反映した芸術作品として重要な位置を占めています。

『鋼鉄の歩み』は、バレエ音楽としての魅力はもちろん、当時の社会情勢や芸術的な実験精神を体現した作品として、今日でも高く評価されています。

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