鍋島治茂

鍋島治茂

鍋島治茂（なべしま はるしげ）は、江戸時代中期から後期にかけての武将、大名。肥前鹿島藩の第7代藩主を務めた後、肥前佐賀藩の第8代藩主となった人物である。佐賀藩第5代藩主鍋島宗茂の十男として生まれ、第6代藩主鍋島宗教、第7代藩主鍋島重茂の弟にあたる。藩政の根本的な立て直しに着手し、その功績から名君と称され、佐賀藩の中興の祖と仰がれている。

官職は肥前守。大名としての当主名は「松平肥前守治茂」と称した。鹿島藩主時代は直煕（なおひろ）と名乗っていたが、佐賀藩主に就任後、当時の将軍徳川家治から偏諱を受けて治茂と改名した。

生涯

宝暦9年（1759年）、治茂は鹿島藩第6代藩主鍋島直郷の養子として迎えられた。そして宝暦13年（1763年）には直郷の跡を継ぎ、鹿島藩の第7代藩主となる。

明和7年（1770年）、佐賀藩第7代藩主の鍋島重茂が38歳で死去した。重茂には嗣子がなかったため、治茂がその跡を継承し、佐賀藩の第8代藩主となった。

藩主となった治茂を待ち受けていたのは、多難な藩政であった。安永3年（1774年）には、小城藩第7代藩主鍋島直愈が有栖川宮織仁親王の下向に伴う接待役を命じられた際、その費用捻出に窮し、接待役の辞退もできず、幕府に借金を願い出る事態となった。この一件により、直愈は幕府から出仕差控の処分を受け、治茂自身も連座して拝謁遠慮という処分を受けている。こうした出来事は、佐賀藩およびその支藩が置かれた厳しい財政状況と、幕府に対する藩の立場を示すものであり、治茂に大きな危機感を抱かせた。

佐賀藩が置かれた厳しい状況を憂慮した治茂は、藩政の抜本的な改革に乗り出すことを決意する。改革の成功例を学ぶため、側近の石井鶴山を熊本藩へ派遣。石井が持ち帰った「改革の鍵は人材育成にある」との報告を受け、治茂は教育の振興こそが藩再生の要であると確信する。そして天明元年（1781年）、儒学者の古賀精里に命じ、佐賀城近くの松原小路に藩校弘道館を創設した。弘道館は、身分に関わらず広く有能な人材を育成する場として、後の佐賀藩に多大な影響を与えることとなる。

人材育成に加え、治茂は経済政策や組織改革にも積極的に取り組んだ。経済面では米筈（こめはず）の発行などを推進し、財政の立て直しを図った。また六府方や徒罪方といった新たな役所の設置など、藩の組織体制にも重要な改革を断行した。治茂自身も優れた教養を持ち、詩文にも長けていたという。

文化2年（1805年）、治茂は61歳で死去した。家督は長男の鍋島直懿（後の鍋島斉直）が継承した。

後の時代、孫にあたる鍋島直正によって佐賀藩の改革はさらに推進され、明治維新においては薩摩、長州、土佐と並ぶ雄藩として重要な役割を果たすことになる。その繁栄と躍進の礎は、治茂が着手した一連の改革にあったと評価されており、現在でも彼を名君、「佐賀藩中興の祖」として高く評価する見方が一般的である。

系譜

父：鍋島宗茂
母：雪（小代重貞の娘）
養父：鍋島直郷、鍋島重茂
正室：当姫（中院通枝の娘）
継室：雍姫（井伊直幸の娘）
継々室：寿姫（大給松平乗薀の娘）
側室：利嘉（福岡義英の娘）、ミン（小代重道の娘）、北御門氏、絹（増田武堯の娘）、コノ（村松武明養女、横山景豊娘）
子息：長男 鍋島斉直、六男 鍋島直彜、四男 鍋島直道、七男 鍋島直与など。女子多数。
* 養子：鍋島直宜（鹿島家継承）、他女子2名。

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