鍋島騒動

鍋島騒動とは

鍋島騒動は、肥前佐賀藩で起きたお家騒動であり、一般には「鍋島化け猫騒動」として知られています。しかし、ここでは史実に基づいた出来事を詳しく解説します。化け猫伝説については、別の項目で詳細に触れます。

騒動に至るまでの経緯

天正12年（1584年）、沖田畷の戦いで龍造寺隆信が戦死し、後を継いだ龍造寺政家は病弱であったため、実質的な国政は隆信の義弟であり重臣であった鍋島直茂が掌握しました。天正18年（1590年）には、豊臣秀吉の命により政家は隠居させられ、家督は嫡男の龍造寺高房が相続しました。秀吉は高房に所領安堵の朱印状を与えましたが、同時に鍋島直茂にも4万4000石、その嫡男である鍋島勝茂にも7000石の所領安堵を認めています。これは、鍋島氏が龍造寺氏の家臣でありながら、大名と同等の所領を秀吉から認められ、国政の実権を握っていたことを意味します。

秀吉の朝鮮出兵が始まると、直茂と勝茂は龍造寺軍を率いて渡海しました。秀吉の死後、権力を握った徳川家康も龍造寺氏を軽視し、鍋島氏による肥前支配を承認しました。これにより、国主である龍造寺高房は名目上の存在となり、家康の監視下に置かれることになりました。

騒動の勃発

成長した高房は、自身の立場に絶望し、慶長12年（1607年）3月3日、江戸桜田屋敷で妻を刺殺した後、自殺を図りました。家臣がこれを間一髪で食い止め、医師による治療が行われたため、自殺は未遂に終わりました。しかし、高房の傷は予想以上に深く、次第に精神を病んでいき、再び自殺を試みました。この時、腹部の傷が破れて大量出血し、9月6日に死去しました。父親である政家は、この出来事に深く心を痛め、元々病弱であった体は耐えきれず、10月2日に後を追うように病死しました。これにより、龍造寺氏の本家は事実上断絶したかに見えました。

その後、龍造寺の分家である多久氏、須古氏、諫早氏などは、高房の後継者として龍造寺本家を支えた功臣である鍋島直茂の嫡男、勝茂を推挙しました。幕府もこれを承認し、鍋島氏を肥前の国主とする佐賀藩が正式に成立しました。慶長18年（1613年）には、直茂に対して幕府から佐賀藩35万7000石の所領安堵の朱印状が交付されました。

化け猫伝説の誕生

無念の死を遂げた高房の遺体は、江戸で火葬された後、佐賀城下の泰長院に葬られました。しかし、その後、高房の亡霊が白装束で馬に乗り、夜中に城下を駆け巡るようになったという噂が広まりました。この噂が発展し、高房が飼っていた猫が化けて出て、直茂や勝茂に復讐を企て、鍋島氏の忠臣によって最終的に退治されるという「化け猫騒動」の物語が形成されました。

その後の龍造寺家

龍造寺本家は政家と高房の死によって断絶したわけではなく、高房の子である龍造寺伯庵と高房の実弟である龍造寺主膳が生きていました。慶長12年（1607年）当時、両者は若年であったため無視され、伯庵は直茂の命令で出家させられていました。

寛永11年（1634年）、伯庵と主膳は幕府に対し、龍造寺家の再興を嘆願しました。この訴訟は寛永19年（1642年）まで続きましたが、幕府はこれを認めず、伯庵を会津藩の保科正之に預け、主膳を大和郡山藩に預ける処分を下し、龍造寺家再興の道は事実上絶たれました。

直茂の死と噂

龍造寺家から実権を奪った直茂は、元和4年（1618年）6月3日に81歳で亡くなりました。直茂は耳に腫瘍ができ、高齢ながらも激痛に苦しみながら亡くなったため、その死は高房の亡霊の仕業ではないかという噂が広まりました。

まとめ

鍋島騒動は、単なるお家騒動ではなく、龍造寺氏から鍋島氏への権力移行、龍造寺高房の悲劇的な死、そしてその後の龍造寺家再興の試みなど、様々な要素が絡み合った複雑な事件です。この騒動が、後世に「鍋島化け猫騒動」という形で語り継がれることになった背景には、歴史的な出来事と人々の想像力が複雑に絡み合っていることがわかります。

関連事項

* 化け猫

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